しかし、「いうことをきかないとき、悪いことをしたときは、親や教師に体罰を受けるのも当たり前」の時代に育った人たちのなかには、自分たちの子どもにどう向き合えばいいのか、どうしつけを行えばいいのか、戸惑っている人も多い。

「もちろん、体罰はいいことではありません。しかしちょっとでも手を出すと『虐待』と言われてしまうことが、親が委縮してしまう一因であることは間違いない。また、個を尊重する時代に育った今の子どもたちは、親世代とは意識がまるで違います。そもそも親や教師に対する敬意がインプットされていないので、わがままや屁理屈を平気で言ってくる。間違ったことをする子たち対して、どうしたら緊張感を持ってそれは間違っていると教え、正すことがきるのか。誰もが難しい課題をつきつけられています」(佐野さん)

 佐野さんのフリースクールでは、子どもを家に戻す前に、親に対するコーチングも行っているという。それまで家庭で子どもとどんな向き合い方をしてきたのか、何が問題だったのかを一緒に振り返り、子どもに毅然とした態度で向き合えるよう、指導している。

「ゲーム機を買うときも、買った後も『うちはこういう方針なんだよ』としっかり伝えて、ルールを守らせる。守れなくなったら、そのたびに話し合いの場を設けて、徹底的に親子で話し合うことが必要です。もはや、親は仕事している背中を見せていればいいという時代ではありません。新しい時代の親としての在り方が求められています」(佐野さん)

 タカアキ君は、佐野さんたちのサポートにより、全寮制のフリースクールで集団生活を送ることで、立ち直ることができた。現在は学校にも復帰し、高校受験を目指している。(取材・文/臼井美伸)

佐野英誠

(さの・ひでのぶ)/1977年大阪府出身。全国フリースクール 伊藤幸弘塾 塾長。教育カウンセラー、不登校カウンセラー、保護者カウンセラー。不登校、引きこもり、ゲーム依存、スマホ依存、ネット依存の子どもたちを、365日24時間体制の寮で生活させることで自立(自律)を支援。家族関係の再構築をサポートしている。

著書『ゲーム依存から子どもを取り戻す』(育鵬社)

臼井美伸

(うすい・みのぶ)/1965年長崎県佐世保市出身。津田塾大学英文学科卒業。出版社にて生活情報誌の編集を経験したのち、独立。実用書の編集や執筆を手掛けるかたわら、ライフワークとして、家族関係や女性の生き方についての取材を続けている。佐賀県鳥栖市在住。

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著書『「大人の引きこもり」見えない子どもと暮らす母親たち』(育鵬社)