ヒロシさんは「学校には行かないとだめだ」と厳しくたしなめた。しかしタカアキ君は「学校は監獄のようだ」と言い、だんだんとふさぎ込むようになった。なかなか続けて登校することができず、ゲームやスマホに没頭する日々。ヒロシさんと妻は親として心配して、タカアキ君にカウンセリングを受けさせたり、親子でマラソンや縄跳びなどをしたりと、息子に気力と体力を取り戻させようとした。タカアキ君も、少しずつ回復に向かっているように見えた。

 そんなときに起きたのが、コロナ禍の「緊急事態宣言」による一斉休校だ。タカアキ君は、再びゲームやスマホにのめりこんでいった。

 家庭で決めていた時間制限などのルールもまったく守らなくなり、生活は昼夜逆転。そんなタカアキ君に対して、ヒロシさんはより威圧的になり、厳しく叱った。はじめのうちタカアキ君は、母親には当たり散らしても父親のヒロシさんの前では従順だったのが、だんだんとヒロシさんに対しても反発を強め、感情を爆発させるようになっていった。

 タカアキ君のいちばんの変化は、「無気力になったこと」。何もかもがめんどくさい、動きたくない、ゲームだけやっていたいという。ネットに制限をかけたり、ゲームができないように設定を変えたりしたところ、職場にいる母親に一日じゅう激怒のラインや電話をかけてきて困らせた。

 母親は、息子の変化を受け止めることができなかった。もともと、タカアキ君は末っ子で甘やかしがちだったというが、このころからは「少しでも気持ちが安定すれば」と、「あれが欲しい」といわれれば買い与え、ご機嫌をとるようになった。「コーラ買ってきて」と言われたら、母親はコンビニに走った。気づけば、まるで息子の「パシリ」のようになっていた。

 ヒロシさんは家に居づらくなり、いつの間にか、親子関係は逆転。息子が家の中では王様になってしまったのだ。

■  子どもを叱れない親が増えている

 タカアキ君はヒロシさんや母親に暴力をふるっていたわけではない。それなのに、どうして親は息子を叱れなくなってしまったのだろうか。

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いい子が不登校になると親はオロオロ