今年の甲子園で好投を披露した明徳義塾の吉村優聖歩 (c)朝日新聞社
今年の甲子園で好投を披露した明徳義塾の吉村優聖歩 (c)朝日新聞社

 智弁和歌山の21年ぶり3度目の優勝で幕を閉じた夏の甲子園。度重なる雨天順延、新型コロナウイルス感染による出場辞退、近畿勢の4強独占などあらゆる意味で歴史に残る大会となったが、優勝争いで大きなポイントとなったのは1週間500球という球数制限ではないだろうか。準々決勝に進出した8校を見ても1人の投手で勝ち上がってきたチームはなく、複数の投手を起用することは必須と言えそうだ。

 そんな中で今大会特に存在感を示したのが明徳義塾の2年生サウスポー、吉村優聖歩ではないだろうか。1回戦の県岐阜商戦では1点を先制され、なおもノーアウト三塁のピンチから登板して追加点を許さない好リリーフを見せると、続く明桜戦でも1点リードの5回途中から2試合連続のロングリリーフで勝利に大きく貢献。準々決勝では最終回に崩れて悔しい逆転サヨナラ負けを喫したが、智弁学園の強力打線を相手に8回まで被安打2、1失点という見事なピッチングを見せた。

 181cmの長身だが、ストレートの平均球速は130キロ程度とスピードはなく、完全な技巧派に分類される。そして最大の特徴はそのフォームだ。走者がいなくてもセットポジションから投げるスタイルで、一度体の正面をセンターの方向に向けて大きくひねり、右足を一塁側にステップして更に肘を下げてサイドから投げ込んでくるのだ。左打者からすると背中からボールが出てきて、さらに角度があるため外のボールは相当遠く見える。また右バッターにとっても内角のボールは体に向かってくるため、スピード以上に怖さを感じるはずだ。スピードがなくても抑えられるのはこのフォームに要因があることは間違いないだろう。

 チームを指揮する馬淵史郎監督は準々決勝で敗れた後に、全国トップレベルのチームと比べるとスピードもパワーもない選手でも結果を出せたと胸を張ったが、攻撃面だけではなく吉村の投球に関してもその言葉は当てはまっていたと言える。そしてこのようなスピードはなくてもフォームや球筋に特徴のある選手はトレンドになる可能性は十分にある。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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今後は変則投手が各チームに?