「宿題がまったくできない」はSOSのことも※写真はイメージです(Getty Images)
「宿題がまったくできない」はSOSのことも※写真はイメージです(Getty Images)
石井志昂(いしい・しこう)/1982年、東京都町田市出身。中学校受験を機に学校生活があわなくなり、教員や校則、いじめなどを理由に中学2年生から不登校。同年、フリースクール「東京シューレ」へ入会。19歳からNPO法人全国不登校新聞社が発行する『不登校新聞』のスタッフとなり、2006年から編集長。これまで、不登校の子どもや若者、識者など400人以上に取材してきた
石井志昂(いしい・しこう)/1982年、東京都町田市出身。中学校受験を機に学校生活があわなくなり、教員や校則、いじめなどを理由に中学2年生から不登校。同年、フリースクール「東京シューレ」へ入会。19歳からNPO法人全国不登校新聞社が発行する『不登校新聞』のスタッフとなり、2006年から編集長。これまで、不登校の子どもや若者、識者など400人以上に取材してきた

 子どもの自殺や不登校が「夏休み明けに多くなる」という話、聞いたことがあるでしょうか。じつは内閣府や文部科省も注意を促すほど、夏休み明けは子どもにとって危険な時期です。特に今年の夏は収束の兆しがみえないコロナ禍という状況下で、子どもたちも不安定になっています。大人はどうやって子どものSOSに気づけばいいのか、不登校新聞編集長の石井志昂さんが解説します。

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 なぜ夏休み明けに自殺が多くなるのか。学校で苦しんでいた子どもは、新学期の準備が始まる8月中旬ごろから「また同じ生活が始まってしまう」と不安に駆られます。この心理状態が「ジェットコースターに乗ったときと同じようだ」とも言われています。ジェットコースターは急降下で落ちている最中よりも、落ちる直前のほうが強い恐怖を感じます。子どもにとっては新学期前日の夜がまさにジェットコースターが落ちる前なのです。恐怖を感じたまま新学期の朝を迎え、悲しい事件が毎年、後を絶っていません。

 親や祖父母、教員など周囲に子どもがいる人は、本人が追い詰められる前にSOSに気がつきたいと思うもの。ところが「子どものSOS」は、とても気がつきづらいものです。複雑な心境を語る表現力がまだなかったり、苦しい気持ちを隠そうとしたりするからです。これまで私が取材してきたなかでも「これは気づきづらいケースだな」と思った不登校の事例を二つ、紹介します。

 一つめは「『夏休みの宿題ができていない』と言って登校しない」というケース。夏休み期間中は「やってるよ」などと親に言いつつも、じつは1ページも宿題をやっていない。常識のある親ならば「ちゃんと謝ってきなさい」と言って学校へ送り出すでしょう。

 ところが「宿題がまったくできない」は、有名な子どものSOSの一つです。貴族漫才で一世を風靡した芸人・山田ルイ53世さんが不登校になったのも「夏休みの宿題」がきっかけのひとつでした。山田さんは小学生のとき中学受験をして、名門校へ入学。運動も勉強も優秀で、テストの成績も学年では10番以内だったそうです。ところが、がんばりすぎて疲れ切ってしまい、2学期からは不登校に。夏休み中は宿題をしようとしても掃除が止まらないなど、強迫神経症とも思われる症状が出ていたそうです。しかし苦しい心境や言動は「親もまったく気づいていなかったと思います。こっちも表面上は優等生を装っていたというか、そのへん、僕完璧なので(笑)」と山田さんは以前、私に語ってくれました。夏休みの宿題を、さぼりたいだけなら元気な証拠。でも、もしかしたら「まったくできない」は、子どもからのSOSかもしれません。

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石井志昂

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石井志昂(いしい・しこう)/1982年、東京都町田市出身。中学校受験を機に学校生活があわなくなり、教員や校則、いじめなどを理由に中学2年生から不登校。同年、フリースクール「東京シューレ」へ入会。19歳からNPO法人全国不登校新聞社が発行する『不登校新聞』のスタッフとなり、2006年から編集長。これまで、不登校の子どもや若者、識者など400人以上に取材してきた

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