エンゼルスの大谷翔平(写真/gettyimages)
エンゼルスの大谷翔平(写真/gettyimages)

「球界の“顔”たる選手が、何を言っているのかを理解してもらうために通訳を必要とするというのは、テレビの前に座り、球場に足を運ぶファンのためにはならないと思うんだ。この国ではね」

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 米国のスポーツ専門チャンネル『ESPN』の番組「ファースト・テイク」で、コメンテーターのスティーブン・A・スミスがエンゼルスの大谷翔平に関してそのような発言をしたのは、7月のオールスター直前のことだった。

 この発言に先立ち「英語を話さない外国人選手がいるという事実は、興行収入の面である程度の害を与えると思う」と話していたこともあって多くの批判にさらされたスミスは、まずはツイッターに上げた動画で自身の発言を釈明。さらに「謝罪をさせてください。アジア系の人々、特に大谷選手個人を不快にさせようという意図は、決してありませんでした」などと綴った謝罪文を公開した。

 ただでさえ多様性が叫ばれ、メジャーリーガーの約3割が米国外の生まれという現代。黒人への差別に対して「ブラック・ライブズ・マター」と呼ばれる運動が起き、新型コロナウイルス感染拡大に伴うアジア人への偏見、暴力なども問題になっている中、スミスがアフリカ系アメリカ人であり、差別の意図はなかったとしても、問題のある発言だったのは間違いない。

 1995年に野茂英雄(ドジャース)が日本人としては30年ぶりにメジャーの舞台に上がって以降、これまでに数多くの日本人選手が海を渡った。中には1997年にエンゼルス入りした長谷川滋利のように、ごく初期を除いて通訳なしで過ごし、インタビューなどにも自ら英語で応じた選手もいるが、大半は専属の通訳を伴っての渡米だった。それでも公に英語を話さないことに異を唱えられたのは、イチロー(マリナーズほか)ぐらいのものだろう。

 日本でプレーする外国人にも、同じことが言える。日本で生まれ育ち、あるいは日本の学校を卒業していれば話は別だが、外国人登録の選手なら自身の母国語、もしくはそれにプラスして英語しか話せないというケースがほとんどだ。1950年代から60年代にかけて阪急(オリックスの前身)で3度の盗塁王に輝き、引退してからは流暢な関西弁で球団通訳になったロベルト・バルボン(キューバ出身)、阪急の正二塁手として3年連続日本一に貢献し、その間に覚えた日本語を駆使して引退後は巨人の通訳を務めたロベルト・マルカーノ(ベネズエラ出身)などは、数少ない例外と言っていい。

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メジャーで英語を“全く話さない”スター選手