医師・コメンテーターとして活躍するおおたわ史絵さん。快活な印象のあるおおたわさんは、実は幼い頃から母の機嫌に振り回され、常に顔色をうかがいながら育ってきたといいます。母が薬物依存症の末に孤独死したことをテレビで公表し、大変な話題を呼びました。
幼少期からの過酷な体験、親との別れ、そして母の呪縛からどうやって逃れたのかを克明につづった『母を捨てるということ』から抜粋して掲載します。
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■顔色をうかがう子
母はすごくアップダウンが激しい気性だった。
頭痛や腹痛持ちだったので体調によって日々態度が違った。
鎮痛剤や睡眠薬をしょっちゅう飲んでいたせいもあっただろう、とても不安定な精神状態で、同じことをしても叱られるときと叱られないときがあった。その基準は第三者にはまったく判断がつかず、文字どおり彼女の気分次第だった。
ただひとつブレることなく決まっていたのは、人を褒めることはほとんどないという点だ。
記憶の限り、彼女が誰かを褒めているのを聞いたことはない。娘のわたしですら、テストでいい点を取ったからといって褒められた経験はない。その逆で、満点以外を取ればもちろん叱られた。
学芸会の劇でいい役をもらったときもなにも言ってくれなかった。友達のお母さんが、「あら、史絵ちゃん。すごいわねぇ」と褒めてくれたのが誇らしかった。
全国小学生模試で科目別一番を取り、賞品の文房具を胸に抱きしめて帰ったときも、「へぇ」とひと言発しただけだった。
いま思えば、彼女は褒めかたを知らなかったのかもしれない。こと娘に関しては思い入れが強すぎるあまり、「もっと、もっと」と焦燥感に駆られてしまい、冷静なジャッジすらもできていなかったのかもしれない。
もしくは彼女自身、褒められた経験が少なかったのではないか? だから褒めかたがわからなかったんじゃないだろうか?
本当のところは謎である。けれどいずれにせよこんなふうに客観的にとらえられるようになったのは、自分もずいぶん大人になったんだなと思う。