柔道の井上康生監督(左)と侍ジャパンの稲葉篤紀監督(C)朝日新聞社
柔道の井上康生監督(左)と侍ジャパンの稲葉篤紀監督(C)朝日新聞社

「こんなバスケットでいいんですか?」とで選手らを叱咤し、銀メダルに導いたホーバス監督(C)朝日新聞社
「こんなバスケットでいいんですか?」とで選手らを叱咤し、銀メダルに導いたホーバス監督(C)朝日新聞社

 メダルラッシュに沸いた東京五輪で、脚光を浴びたのは選手だけではない。陰から支え続けた指導者の存在もクローズアップされた。

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 圧巻だったのは男子柔道だった。60キロ級の高藤直寿、66キロ級の阿部一二三、73キロ級の大野将平、81キロ級の永瀬貴規、100キロ級のウルフ・アロンと5選手が金メダルを獲得。この快進撃に井上康生監督の指導が欠かせない。男子柔道は低迷が続いていたが、16年のリオデジャネイロ五輪で、金メダル2個を含む全ての7階級でメダルを獲得。男子が全階級でメダルを獲得したのは、1964年東京オリンピック以来52年ぶりの快挙だった。科学的なトレーニングを積極的に導入し、強くなるために他競技の種目も取り入れる。根性論や精神論からの脱却で選手の心をつかみ、東京五輪では期待以上の結果を残した。

 印象的な場面は90キロ級・向翔一郎が3回戦で21年世界選手権3位のハンガリー代表・トートに延長戦の末、大内刈りで一本負けした時の光景だった。向はインタビューで気丈に振る舞っていたが、その心境は違った。報道によると、井上監督は向が控室で号泣していたことを明かし、混合団体戦に向け、「『必ずお前に団体で金メダルを獲らせて帰らせる』と伝えたので、一緒に頑張ります」と涙で声を詰まらせた。

「残念ながらフランスに敗れて金メダル獲得は叶いませんでしたが、混合団体戦で向の奮闘が光りました。準々決勝のドイツ戦では阿部詩、大野将平が破れて崖っぷちに追い込まれたが、向が同じ階級の個人戦で銀メダルを獲得したトリッペルに勝って一気に流れを引き寄せた。誰よりも喜んでいたのが井上監督でした。選手たちは『井上監督のために勝ちたい』と口をそろえます。こんなに信頼されている監督はいないと思います」(スポーツ紙柔道担当記者)

 野球日本代表・侍ジャパンの稲葉篤紀監督も大きな重圧がかかる中、金メダル獲得に導いた。「絶対有利」の下馬評ほどやりづらいものはない。

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選手と距離が近い稲葉監督