兄・圭祐の悔しさを胸に金メダルを獲得した乙黒拓斗 (c)朝日新聞社
兄・圭祐の悔しさを胸に金メダルを獲得した乙黒拓斗 (c)朝日新聞社

 東京オリンピックのレスリング競技が8月7日、幕を閉じた。日本は12選手がこの舞台を踏み、最終成績は金メダル5個、銀メダル1個、銅メダル1個。一抹の悔しさがないことはないが、後半のメダルラッシュで、5人ものオリンピックチャンピオンが生まれた。金メダリストのうちJOCエリートアカデミー(以下、エリートアカデミー)出身者から3名を輩出したことは、長年の強化策が実ったひとつの成果と言えるだろう。

 男子では、初日に登場したグレコローマン60kg級の文田健一郎(ミキハウス)が、金メダルへの大きな期待を背負って日本チームの切り込み隊長を担った。下馬評通りに決勝まで勝ち上がったが、決勝ではキューバ選手に徹底的に対策され、まさかの銀メダルに終わる。1952年ヘルシンキ五輪から続く日本のメダル獲得記録は守り、誇れる結果ではあるが、「金メダルを目標にしてきたので、叶わなかったのは、悔しいし、残念です」と悔し涙にくれた。「3年後は笑ってマットを下りたい」とパリ五輪に早くも意欲を目指す。

 グレコローマン77kg級銅メダルの屋比久翔平(ALSOK)は、グレコローマンの日本オリンピック史上最重量メダリストになるとともに、オリンピック個人競技で沖縄県出身者初のメダリストとして、歴史に名を刻んだ。3位決定戦では大差で2度も敗れている相手を、2回の投げ技などで圧倒してテクニカルフォール。フリースタイルの高速タックルも魅力だが、屋比久の豪快な投げ技はグレコローマンの魅力が全て詰まった素晴らしい試合だった。

 男子フリースタイル4選手は、明暗が分かれた。3大会連続出場の高谷惣亮(86kg級/ALSOK)は1回戦、57kg級の高橋侑希(山梨学院大職)は2回戦で惜敗した。2017年世界選手権覇者で、熾烈な代表争いを勝ち抜いてメダルを期待された高橋は「日本の軽量級が世界トップだと証明できずに悔しい」と唇を噛んだ。

「兄弟で金メダル」を狙ったのがエリートアカデミー出身の乙黒圭祐、拓斗兄弟(共に自衛隊)だ。先陣を切った兄・圭祐(74kg級)はキレのある動きでペースを掴みながら、一瞬の隙を突かれて1回戦でフォール負けを喫した。「悔しさはありますが、後悔はない。拓斗には、自分の思いもこめて期待したい」とスッキリした顔で弟の背中を押した。

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拓斗は兄の悔しさを晴らす