※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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 歯周病の治療をきっかけに、歯の汚れが気になる人は多いようです。「歯をきれいにして人生をやり直したい」と言う声も珍しくないのだとか。汚れた歯を白く輝く歯に戻すことはできるのでしょうか? その方法とは? 歯科医師で歯周病専門医の若林健史歯科医師に聞いてみました。

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 歯周病の治療がある程度進んでくると、患者さんからしばしば、「歯の黄ばみが気になる」「歯の色は元には戻らないのですか」などの声が聞かれます。

 歯周病で歯医者にやってくるとき、患者さんはたいてい何かの症状があります。

 歯ぐきが真っ赤に腫(は)れている、歯ぐきから膿(うみ)が出ている、痛み、しみるなどの症状……。まずはこうした不快感を治してほしいとおっしゃいます。

 しかし、治療が進むと腫れがおさまり、口の中のねばつきなども取れてきます。口臭もなくなって爽快な気持ちになってくると、歯の汚れや色が気になり始める。そして、「口の中をもっときれいにしたい」と言うのです。これは前向きな気持ちのあらわれであり、とてもよいことだと思います。

 歯周病の人の歯が汚れているのは、きちんと歯をみがけていないからです。

 歯周病菌が繁殖するのは細菌の巣窟であるプラーク(歯垢)であり、初診でやってくる患者さんの歯にはプラークがべたべたと付着していることが多いです。

 また、ヘビースモーカーには歯周病が多く、たばこのヤニによる着色(ステイン)もあります。

 また、歯周病が進んでくると歯ぐきがやせて、歯根が露出してきます。歯根は歯の白い部分であるエナメル質がなく、黄色い象牙質でできています。このため、歯冠との色の違いが目立ち、歯が汚れているように見えてしまいます。

 さらに歯根は口の中の汚れがつきやすいところとしても知られており、コーヒーや赤ワインなど、着色しやすい食べ物を好む人はその色が目立つ状態になっているかもしれません。さらに加齢の影響でも歯の色は徐々に変色し、黄ばんでいきます。

 歯を白くするためには、飲み物や食べ物による着色を取り除くことが第一です。

 実はこれだけでかなりきれいになります。やり方は簡便で、歯科医院でクリーニングを受ければよいのです。

 専門的にはこれを歯科衛生士が専用の器具を使っておこなう、「スケーリング&ルートプレーニング」と言います。この処置では歯冠(エナメル質)の表面の着色を、回転するブラシで取り除く、「ポリッシング」も必ずおこないます。

 ポリッシングはプラークや歯石を取り除くのと一緒に、歯の表面についている着色物(たばこのヤニ、コーヒー、紅茶やお茶のタンニン、赤ワインの色素、その他、色のある食品や飲みものなどによる歯の着色)を除去し、ポリッシングペーストという清掃用のペーストを付けて、みがき上げていく作業です。

 これをおこなうと、歯は本来の色に戻ります。

 これまで何度も紹介してきましたが、スケーリング&ルートプレーニングは歯周病治療の一環でもあります。最近はエアフローという歯面清掃の機械が登場しています。非常に細かなパウダー粒子をジェット噴射で歯に吹き付けることにより、歯にこびりついた汚れを効果的に落とす方法があります(自費診療)。

 さらに白くしたい場合はホワイトニングがあります。これは変色した歯を漂白剤で脱色して白くする方法です。ホワイトニングジェルの主成分である過酸化水素・過酸化尿素はエナメル質内の黄色い色素を無色透明に分解する働きがあります。つまり、歯の中から白くするのです。

 ホワイトニングには歯科医院でおこなう「オフィスホワイトニング」と自宅でおこなう「ホームホワイトニング」があります。歯科医院でおこなう場合は、ジェルをつけた歯に光やレーザーを照射してホワイトニングをより、短い時間で完了する方法を実施しています。

 ホームホワイトニングでは歯科医師の指示のもと、専用のマウスピースに薬液(歯科医院よりも低濃度)を入れたものを毎日2~4時間程度、装着します。白さを実感するまでに2週間程度、かかり、その後は希望の白さになるまで継続していきます。時間はかかりますが、白さを維持できる期間は長いです。

 これで満足できない場合、「補綴(ほてつ)治療」を考えます。補綴とは歯が欠けたり、なくなった場合にクラウンや入れ歯などの人工物で補うことをいいますが、歯を白くする目的でも広く実施されています。

 ラミネートべニアといって、色の気になる歯の表面をごくわずかだけ削って、歯の色をした薄い板を貼り付ける方法や歯科樹脂であるコンポジットレジンを色が気になるところに部分的にもりつける方法もあります。

 歯並びの問題も一気に解決したい場合は、人工歯のセラミックスをかぶせる方法があります。歯根を隠したい場合もこの治療をすすめることになります。

 ただし、セラミックスをかぶせるためには土台となる健康な歯をかなり削らなければなりません。

 また、セラミックスをかぶせた部分と元の歯には必ずすき間ができます。ここにプラークがたまりやすいのですが、自分ではみがきにくく、そこから新たな歯周病やむし歯が発生することが多いのです。そのぶん、セルフケアやこまめな通院が大事になります。

 このため、歯科医師としては、なるべく健康な歯を削らないで歯を白くする治療を提案しますが、それでもセラミックス治療を希望する患者さんには応じています。例えば芸能事務所に所属し、デビューが決まったタレントさんで、すぐに歯をきれいにしなければ間に合わない場合などがあります。「まだ、若いのに健康な歯を削ってしまうのはもったいない」という半面、ご本人にとっては、「自分の人生がかかっているチャンスを前に、歯を削ることは決してデメリットではない」となるわけです。

 人生100年時代といわれますが、最近は50代、60代でも、「歯を白くしたい」と希望する患者さんは多く、補綴治療の相談をされることも珍しくなくなりました。治療後には、「歯が白くきれいになったので、思い切り笑えるようになった」と喜ぶ人もいます。

 最近はその人の残りの人生が楽しく過ごせるのであれば、どこまでご本人がやりたいのかという希望をきちんと聞き、リスクをお話ししたうえで、審美性を重視した治療も検討することが大事だと実感しています。

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若林健史

若林健史

若林健史(わかばやし・けんじ)。歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演。AERAdot.の連載をまとめた著書『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか?聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中。

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