夫は連れ去りについて「子どものためには最善だった」と話した。画像はイメージ(画像/PIXTA)
夫は連れ去りについて「子どものためには最善だった」と話した。画像はイメージ(画像/PIXTA)

 離婚・別居の際、一方の親が相手に無断で子どもを連れて家を出てしまうことがある。いわゆる「子どもの連れ去り」だ。離婚・別居をしても子どもにとって親はふたり。もちろんDVや虐待など子どもに被害が及ぶ場合は別だが、夫婦の同意のない子どもの連れ去りは、海外では違法行為となることもある。一方で、夫婦の葛藤によって生じる問題から「避難」するためには、とりあえず子連れ別居するのもしかたないという意見もある。いずれにせよ、親子の断絶にもつながりかねない「子どもの連れ去り」については、慎重な議論が必要だ。連れ去った側、連れ去られた側、それぞれの言い分とは――。

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 北関東在住の内田健吾さん(仮名・42歳)は、妻が仕事に出ている隙に、7歳の息子を連れて実家に引っ越した。妻には黙って転校手続きもすませ、次の日から子どもは実家の近くの小学校に通うことになった。

「僕のしたことはいわゆる『子どもの連れ去り』で、世間から非難を浴びても仕方のないことだとわかっています。でも、子どものためにはそれが最善だと思いました」

 なぜ健吾さんは、子どもを連れ去ったのか。結婚から子どもの連れ去りまでの経緯を振り返ってみたい。

 健吾さんは、地方公務員で市役所勤め。8年前に結婚した妻は介護職で、共働きをしていた。

「妻とは、友達の紹介で知り合いました。仕事に誇りをもっていて、真面目なところが気に入り、1~2年付き合って結婚。すぐに子どもに恵まれました」

 妻は産休・育休を経て、子どもが1歳で仕事に復帰。3年間は時短勤務をしていた。健吾さんは職業柄、5時には仕事がきっちり終わる。夫婦で家事、育児を分担し、生活はうまく回っていた。

「自分で言うのもなんだけど、ふつうの男性よりはかなり家事、育児にかかわっていたと思うんです。食事の支度や掃除、洗濯はほぼ半々。子どもが赤ん坊のころの夜泣きも、平日は育休をとっている妻にまかせていましたが、週末の2日間は、妻は別室に寝てもらい、僕が子どもと一緒に寝て、搾乳しておいた母乳を哺乳瓶で子どもに飲ませて対応していました。でも、不満はまったくなかった。子どもと過ごすのが、僕は楽しかったんです」

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夫に子がなつくのが気に入らない妻