試合中の日産スタジアム。20人ほどのファンが、おもにゲートの前の階段に座って応援していた(撮影/上田耕司)
試合中の日産スタジアム。20人ほどのファンが、おもにゲートの前の階段に座って応援していた(撮影/上田耕司)
夕方、フランス戦開始前の日産スタジアム。人気はまばらだった(撮影/上田耕司)
夕方、フランス戦開始前の日産スタジアム。人気はまばらだった(撮影/上田耕司)
前半先制ゴールを決めた久保=2021年7月28日、日産スタジアム(c)朝日新聞社
前半先制ゴールを決めた久保=2021年7月28日、日産スタジアム(c)朝日新聞社

 東京五輪のサッカー男子日本対フランス戦は、4―0で日本が勝ち、準々決勝に駒を進めた。2大会ぶりのベスト8をかけた注目の戦い。会場となった横浜市の横浜国際総合競技場(日産スタジアム)周辺は本当なら多くの人でにぎわうはずだったが、無観客試合で閑散としていた。28日、試合前後の横浜を歩いた。

【写真】「居酒屋のユニホーム」と酷評された東京五輪表彰式の衣装はこちら

*  *  *

 午後10時頃、薄暗い日産スタジアムの外には、階段に座り、応援する人影がまばらにあった。スタジアムの表と裏では総勢30人くらいの人たちが、中から聞こえてくる音だけで「観戦」していた。

 日本代表がゴールを決めると、「ジャパンゴール!」という興奮気味のアナウンスが会場の外まで響いてきた。誰がゴールを決めたのかは全くわからない。音を聞きながら、みなスマートフォンで試合の様子を確認するのだ。

 頑丈そうな鉄のゲートの前のコンクリートの階段に座っていた、男性1人、女性2人の3人組に話しかけた。20代の女性は、ゴールと同時に全身で歓喜のダンスを踊っていた。

「今、前田大然がゴールを決めたんです。3人とも近所に住んでいて、きょうは散歩がてらに来ました」

 試合の前半から来ていたという男女はこう話す。

「会社の同期でたまたま家が近いので2人で来ました。ここにいると、アナウンスとかが聞こえるし、みんなバラバラで観戦しているんだけど、やっぱり人と共有している感がある」

 暗闇に目をこらすと、一人でやって来て記念写真だけ撮って帰って行く人、サッカーのユニフォームを着ているカップル、子どもを連れてきて建物だけ見せている親子など、滞在時間は人それぞれだ。

 神奈川県内から来たという男子大学生4人組は、ドライブがてらに立ち寄ったという。

「聞こえて来るのはアナウンスとホイッスルの音だけです。これで選手の声が聞こえてくればいいけど、さすがに聞こえないですね」

 高校1年生の2人組は、自転車で来たという。

「一生に一回だからきょうは来ました。生の観戦はできないにしても、雰囲気だけは味わいたくて。特別な時間でした」

著者プロフィールを見る
上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

上田耕司の記事一覧はこちら
次のページ
「気持ちが抑えきれなくなって来ました」