初戦にリリーフ登板した侍ジャパンの青柳晃洋(写真/gettyimages)
初戦にリリーフ登板した侍ジャパンの青柳晃洋(写真/gettyimages)

 4位に終わった2008年の北京オリンピック以来、13年ぶりとなる野球日本代表の五輪初戦はまさに“辛勝”という言葉がこれ以上ないほどピッタリ当てはまる苦しい試合だった。相手に先制されて打線が沈黙し、リリーフ陣も手痛い失点を喫する展開に過去の五輪での敗戦を思い出したファンも多かったはずだ。そしてそんな苦しい展開になった原因も過去に敗れた五輪、国際大会と共通している。

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 まず何よりも気になったのが攻撃陣の弱さだ。最終回にようやく打線が繋がって4対3のサヨナラ勝利を収めたものの、8回までに奪ったのは村上宗隆ヤクルト)の内野ゴロによる1点だけ。6回まではわずか1安打と完全に打線は沈黙していた。特に山田哲人(ヤクルト)、坂本勇人巨人)、鈴木誠也(広島)の中軸3人は凡打の内容も悪く、得点できそうな雰囲気すら感じられなかった。

 国際大会の場合、データの少ない投手を相手に苦戦することはよくあることだが、今日のドミニカの先発は巨人でプレーしているメルセデスである。メルセデス自身が日本でのプレーに慣れているというアドバンテージも確かにあるかもしれないが、NPBでのデータは豊富にあり、対戦経験のある選手も多い。そんな中でも6回までほぼ完璧に抑え込まれたということに、野手陣の状態の悪さがよく表れている。今シーズンのプレーぶりよりも、実績を重視してメンバーを選んだことの“ツケ”が早速出た格好と言えるだろう。

 攻撃面でもう一つ気になったのが采配だ。1点を追う8回に先頭の山田が四球を選んで出塁したが、続く坂本の場面で選択したのは送りバントだった。相手投手のディアスはどう見てもクイックが遅く、盗塁をしかければ成功した可能性は高かったはずである。また今回の五輪は一昨年のプレミア12でのメンバー、戦い方を踏襲するという方針だったはずだが、プレミア12で僅差の場面で大きな威力を発揮した周東佑京(ソフトバンク)のような足のスペシャリストは今回のチームに招集されていない。結果として続く3番の吉田正尚(オリックス)がレフト前ヒットを放ったが、山田は本塁で憤死している。ここでこれまで見せてきた足を使った攻撃ができなかったというところも、首脳陣の迷いが感じられた。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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