ヒロインの清原果耶(C)朝日新聞社
ヒロインの清原果耶(C)朝日新聞社

 NHK朝ドラ「おかえりモネ」が東京編に入った。初回からの「登米・気仙沼編」は第45回(7月16日放送)で終了。第46回(19日放送)からは、気象予報士としての活躍を目指し、上京したヒロインの奮闘が描かれている。

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 全体の3分の1以上が経過したわけだが、一定のファンはつかんでいる印象。ただ、大ヒットには至っていない。その理由について、私見を述べてみたいと思う。先にシビアな指摘をしたうえで、あとで魅力を語るのでそのあたりを踏まえて読んでいただけるとありがたい。

 その評価を分けているのは、独特の空気感と世界観だろう。たとえば、物語的にも映像的にも、モヤがかかっているみたいで、どこかつかみどころがないのだ。

 その象徴のひとつが、女声ボーカル(坂本美雨)によるヴォカリーズ風のBGM「天と手」。アンチ寄りの視聴者からは「ハンハン」と呼ばれている。これが大事なせりふに重なったりするところが、ちょっと不評だ。

 筆者はそれほど気になっていなかったが、第43回ではかなり違和感を覚えた。ヒロインが東日本大震災で負ったトラウマ(心的外傷)を、親しくしている青年医師の前で告白するという、全編を通じても重要な場面でのことだ。

「私、島にいなかったんです。高校の合格発表の日で。(略)妹に言われたんです。『お姉ちゃん、津波見てないもんね』って。そんなの、仕方ないですよね。でも、ずっと刺さってて」

 淡々と、しかし、奥にとどめていたつらさを吐き出すように切々とつぶやくヒロイン。ここに「♪ふ~」とか「♪あ~」とかが繰り返されるこのBGMが、2分以上もかぶったのである。

 また、構成については、いくつかの時間軸が行ったり来たりするのがわかりにくいという声も見かける。回想シーンはドラマにつきものとはいえ、ながら見の視聴者も多い朝ドラだけに、もうちょっと見せ方があるのかもしれない。

 さらに、ヒロインを演じる清原果耶(19)については、その微妙なニュアンスを感じさせる繊細な芝居を絶賛する人もいるなかで、無表情だとか、何を考えているかが伝わってこないと言う人もいる。たしかに、喜怒哀楽を派手に表現するタイプの多い朝ドラ女優としては異質だ。

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宝泉薫

宝泉薫

1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など

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「ヒロインと脚本家を過信している」