そして、最後は走力だ。本塁打の数ばかり注目されているが、大谷は走力でもリーグ上位である。また、今の大谷はシーズン20個以上のペースで盗塁を記録している。大谷を“打者のみ”として見ても、本塁打を量産するパワーだけではなく、優れた走力を持っていることから、大谷の方が優勢ではないかと述べる。

 こうした大谷の高い能力から、今季のMVP予想は現地メディアにとって非常に難しいものになっているようだ。もし、最終的に両者の成績で勝負が決まるのであれば、今月末以降その争いはさらに激しくなるだろう。それもゲレーロJr.が所属するブルージェイズが、7月30日から約2年ぶりに本拠地であるカナダのトロントに戻ることが決まっているからだ。

 これまでブルージェイズはカナダ政府が敷いた入国制限の影響で、地元に戻ることができなくなっていた。その代わりとして同球団は、昨季から今年7月までホームゲームを全てアメリカ国内にある同球団のキャンプ地やマイナーリーグの球場で実施していた。だが、このほどカナダ政府から例外規定を受けて、ようやく本拠地で試合が開催できるようになった。本拠地の変更で、ゲレーロJr.の本塁打ペースが落ちるかもしれないという懸念もある一方、今のペースが維持されるだろうという予想もある。

 それも、ブルージェイズの本拠地ロジャース・センターはメジャーリーグ全球場の中で最も本塁打が出やすい球場とされているからだ。『ESPN』が掲載しているパークファクター(本塁打やヒット、得点など球場ごとの偏りを表す指標)のデータ(2019年版)によれば、平均的な本塁打数を1.0とすれば、ロジャース・センターは1.317であった。これは、大谷が所属するエンゼルスの本拠地の1.081よりも多い。

 余談だが、今季ブルージェイズがシーズン前半戦で仮本拠地としていたTDパーク(フロリダ州ダニーデン)は1.456、セーレン・フィールド(ニューヨーク州バッファロー)は1.225で標準よりも高い数値であった。ちなみにエンゼルスの本拠地は1.298で2019年よりも若干は増えている。

 話を戻すが、ブルージェイズのカナダ凱旋でもう一つゲレーロJr.にとって追い風になりそうなのは本拠地開催を心待ちにしていたカナダのファンの熱烈な声援だ。前出の『スポーツ・イラストレイテッド』も、「約2年ぶりの凱旋はMVP選考の有権者に強烈な印象を残すかもしれない」という予想をしている。いずれにしてもこのカナダ凱旋がゲレーロJr.になんらかの好影響を与える可能性は大いにありそうだ。

 今季のMVPは大谷になるのか、ゲレーロJr.になるのか、もちろん今はまだ分からない。だが、後半戦は両者の激しい争いで大いに盛り上がることは間違いないといえる。今年のメジャーリーグは最後まで見逃せない。(在米ジャーナリスト・澤良憲/YOSHINORI SAWA)