研究には料理でいうレシピのようなものがあります。プロトコールと呼ばれるものです。これを守れば実験がうまくいきます。しかし、大事なポイントを端折(はしょ)ったり、塩と砂糖を間違えるような試薬の入れ間違えをすれば実験は大失敗に終わります。

 料理の場合、1品作るだけならそれほど大した作業ではありません。大変なのは、一度に何品も作るような状況です。こうなると段取りの良さが必要となります。実験も同時にいくつか走らせることがあって、このマルチタスクが料理にそっくりなのです。

「研究をするものは料理もすべし」

 とまでは言いませんが、

 異なったプロトコールを同時進行で行う能力は、料理をすることで鍛えられる可能性はあります。実際に、料理が趣味という研究者をわりと見かけます。

 さて、このように研究にもビジネスにも役立つかもしれない料理ですが、学生時代の目論見が外れたことが二つあります。

 初心を忘れ調理師免許に目がくらんだ私は、バイトの条件が合う、庶民的なオムライスを作るお店で働いてしまいました。結果、いまだに卵トロトロのオムライスを作れません。

 むしろ、卵ノートロトロオムライスを作り続けたせいで、そっちのほうが好きになってしまいました。

 そして、もう一つ。

 調理師免許を取っても結局モテませんでした。こっちは全くのドライです。

 あんなに勉強頑張ったのに、とは思いませんが、思い返すと自分が恥ずかしい限りです。

 タイムマシンに乗ってあの頃の私に伝えたい。

「料理ができる男がかっこよくモテるわけではない。かっこよい男が料理をできるとますますモテるのだ」

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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