村瀬さんによると、日本の性教育は世界でもかなり遅れており、アジアでも中国や韓国のほうが意欲的に取り組んでいるという。その反面、世界のポルノの約6割が日本で作られており、「性産業先進国」と揶揄されたこともある。

 日本の学校の教科書は、文部科学省が制定した学習指導要領に沿って作られているが、教科書での性教育の内容は、現在でも「月経」や「射精」という言葉の意味は教え、「赤ちゃんは、女性のお腹の中で育つ」としながら、受精や性交のしくみは記されていないなど、大きな疑問点が残されたままだという。

 教科書や学校で十分な知識を得られなかった子どもは、友人や交際相手、アダルトサイトなどから性の知識を得る。しかし、そうしたアダルトコンテンツは男性の興奮をかき立てる目的で作られた「妄想」や「ファンタジー」が多く、暴力や支配によって相手を従わせる表現が少なくない。

「妄想」や「ファンタジー」と十分に区別しないまま偏った知識を蓄えた結果が、先程紹介したような、「『ルナルナ』がスマホに入っていると彼氏持ち」「ナプキンは一日一枚で足りる」という発信だ。

 もちろん、「マスターベーションはいけないこと」「相手のことが好き・愛しているなら、セックスしなければならない」「膣外射精なら妊娠しない」など、間違った認識を育ててしまっているのは、男性だけでなく女性も同様だ。

 それを証するように、令和の現在でも、「性教育=ポルノ」「性教育=セックス」という誤解から、性教育の必要性が理解できない大人が跡を絶たない。

 村瀬さんは、そんな現代の大人たちに、以下の2点を強く求める。

(1)「性教育」と「ポルノ」は、全く違うものだと認識をアップデートすること
(2) セックスは、性教育のたくさんあるテーマのひとつに過ぎないこと

 長年、擦り合わせないままに育んだ“誤解”が、男女を断絶に追い込んでいないだろうか。筆者は、この溝を埋めるために、性教育は有効だと考える。

■   性の知識を持つメリット

 近年、男性の育休取得や介護の問題が注目されている。男性も女性も高齢者も若者も、自分の最大のパフォーマンスを発揮できる時もあれば、できない時もある。自分が大変なとき、誰かがカバーしてくれるシステムが社会に確立されていれば、労働や社会貢献を続けることができる。そのためには、自分とは違う人のことを理解する機会は必要不可欠だ。

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自己肯定間が高くなる