では、味覚はどうか。コンソメスープを飲むと、塩分もうまみも感じた。一味唐辛子をかけたら、いつもと変わらぬ辛さだ。バナナは甘さは分かるが香りがしないので、どこか味が違う。そうめんをゆでて食べたが、めんつゆも、カツオだしの香りはしないものの、ちゃんとおいしかった。舌はどうやら大丈夫のようだ。

 落ち着いて考えようと、「コーヒーもどき」を飲み直す。思い付きでシナモンの粉を振りかけてみたが、あの独特の香りのかけらすら分からない。

 体温を測ると熱は36度9分だった。少し高いくらいだろうか。くしゃみと鼻水が出ていることに気づき、倦怠(けんたい)感と筋肉痛、頭痛もあると言えばある。ただ、前日に4~5キロほどランニングをしており、その筋肉痛や疲労感も間違いなくあるはずだ。

 筆者が住んでいる自治体のホームページで調べると、発熱など感染が疑われる体調の異変を感じたら、まずはかかりつけ医や近所の診療所に相談をしてほしいと書かれている。

 まさか自分が感染することはないだろうと、いざという時の下調べも準備も、何もしていなかったことに気づく。

 日曜日でもあり、近くの診療所もやっていないだろう。身体は辛くないし食欲もある。ただの風邪かもしれないと、一日、自宅で様子を見ることに決めた。

 昼食も夕食も、あらゆる物の臭いをかぎ続けたが、全然ダメ。

 シモの話で申し訳ないが、自分がトイレで用を足している時間すら「無臭」なことに気づいたのは、その日の夕方のことだった。(文=AERAdot.編集部・國府田英之)

「感染した記者『僕のウイルスは変異株ですか?』との質問に医師が発した驚きの言葉」に続く

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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