江東区防災課の松村浩士課長にまず、台風が迫ってくる場合の対応について聞いた。

「何日も前から災害発生のリスクが見えてくるので、そのタイミングでワクチン接種のスケジュールの見直しを図ったうえで、自主避難施設としてワクチン接種の会場を使うか、という話になるでしょう」

 ただし、実際には「自主避難施設を開けるタイミングを決めるのは非常に難しい」と言う。ゲリラ的な集中豪雨になれば、さらにその難しさが増す。なお、災害発生でもワクチンを損失しないよう、集団接種会場には非常用の発電機が備えられ、停電の際は、これによってワクチン用冷凍庫の電源が供給されるという。

■医療関係者の安全確保も

 懸念は、荒川の増水だ。もし堤防が決壊して洪水が発生した場合、もっとも深刻な想定では、浸水の深さは5~10メートルに達し、浸水継続期間は2週間以上にもなる。

「荒川の上流部、埼玉県のほうで集中豪雨が起こって、川の水かさが増す。江東区の場合、避難所は小中学校ですが、避難指示を出すとともに、これと自主避難施設を同時に開けるということもありえる。そうなった場合、ワクチン接種か、避難か、というと、避難場所の確保が優先されます」(松村さん)

 そもそも、災害発生する可能性が高まれば、住民がワクチン接種の会場に行くことの危険度が増す。加えて、ワクチン接種に携わる医療関係者の安全についても考慮しなければならない。

「医師や看護師は、区内の居住者ばかりではなく、区外から来られる方も多くいるので、居住地での避難ということもあり得ます。それ以前に、江東区に来られるのか、ということもあります」(同)

 この課題におけるポイントは、避難情報に基づいて避難所をどのタイミングで開けるか。そのとき、ワクチン接種関係者の安全をどう確保するか、と松村さんは言う。

「さまざまなシチュエーションが想定できますが、最終的にはそのときの状況に応じて判断していくしかありません」

(AERA dot.編集部/米倉昭仁)