「内情ははっきりとはわかりませんが、ミャンマーオリンピック委員会は『その影響はない』と言ってきています。影響がまったくないことはないと思いますけれど、仮に政情不安が本当の原因であれば、出場自体が厳しいでしょう。新型コロナの影響でゆとりを持ったプランが建てられず、事前キャンプを取りやめざるを得なかった、というのが実情だと思います」

 今年2月、ミャンマーでは国軍によるクーデターが発生し、全権を掌握。市民の抗議デモが各地で相次ぎ、治安部隊の発砲で多数の死者が出る事態となった。同財団でも、現地オリンピック委員会の担当者と連絡がとれなくなるケースも想定していたという。

「心配になって、普段からやりとりをしている人たちと連絡をとったんですけれど、みなさん無事に過ごしているということでした。インターネットが遮断された、という報道もあったので心配していましたが、思っていたようなことはまったくなかったです」

■もし選手が政治亡命を求めたら?

 石井さんはクーデター後もミャンマーオリンピック委員会と頻繁に連絡をとり続ける一方、胸をざわつかせるニュースも飛び込んできた。

 4月、東京五輪への出場が確実視されていたミャンマーの競泳選手が、練習を続けていた豪州で国軍の弾圧に抗議し、出場辞退を表明。そして5月27日、千葉市で行われたサッカーワールドカップ予選試合で、ミャンマーのピエ・リアン・アウン選手が国軍への抗議を表す3本の指を立てた。同選手は帰国を拒否し、難民申請を行った。

 石井さんは「個人的な意見」と前置きをしたうえで、こう語る。

「事前キャンプ中、同様に『日本に残ります』と言う選手が現れることも頭をよぎりました。そういうことが起きる可能性はあるだろうな、と。いくらオリンピックが政治とは切り離されたものとはいえ、そこで政府批判をしたら、祖国での居場所がなくなってしまうことはありうる。国には家族もいる。それを心配していましたね」

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海外からの受け入れは何が起こるかわからない