塩澤医師は一時的人工肛門を造設した人は、この術後化学療法を受けにくいという。

「一時的人工肛門で水分が吸収されていない便が出ることに加え、抗がん薬による下痢の副作用も重なることになり、脱水に注意が必要になるからです」
 村田医師は再発リスクなどのデータを挙げ、術後化学療法を受けるかどうかの選択のポイントを次のように解説する。

「ステージIVなら術後には基本的に化学療法を加えます。しかし、ステージIIなら再発する人は20%、IIIなら30%程度です。70~80%の人には不要な治療になってしまいます。抗がん薬が効かない人もいます。こうしたデータを合わせると、術後化学療法のメリットを得られるのは5~10%の人となります」

「5~10%も効果がある」と考えるなら術後化学療法を選択し、「5~10%しかない」と考えるなら経過観察となる。

 両医師とも「こうした数字を医師によく確認したうえで術後化学療法を受けるかどうかを決めてほしい」と呼び掛けている。

■手術数が多いほど技術的に信頼できる

 病院ごとの手術数の見方では、「症例数が多い病院ほど、技術的にも経験的にも“うまい医者”に出会える確率が高くなるのは間違いないでしょう」と塩澤医師は話す。

 開腹と腹腔鏡の症例数のバランスについて、村田医師は次のようにみている。

「どちらかの症例数が多いほど技術が高いといった関係はありません。病院ごとの方針の違いといえるでしょう。ただ、腹腔鏡を希望するなら、腹腔鏡の症例数が多い病院を選んだほうがいいといえます」

 ランキングの一部は特設サイトで無料公開しているので参考にしてほしい。「手術数でわかるいい病院」https://dot.asahi.com/goodhospital/

【医師との会話に役立つキーワード】

《自律神経温存術》
直腸がん手術の課題は排便機能だけではない。直腸の周囲には排尿機能や性機能を調節する自律神経があり、手術後の機能障害が最小限で済むような、自律神経を確認して残す手術が求められる。ロボット手術は神経温存に有利な可能性がある。

《肛門温存》
がんが肛門近くの直腸にある場合に、肛門ギリギリまで直腸を切除して肛門を残すこと。要介護者が肛門温存を選択した場合、頻回の排便や便もれなどで本人のおむつが不衛生な状態になりがち。ケアする側の負担も増大する。

【取材した医師】
神奈川県立がんセンター 消化器外科部長 塩澤 学医師
関西労災病院 副院長 外科部長 村田幸平医師

(文/近藤昭彦)

※週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2021』より