アルゼンチンのニューウェルスの下部組織で活躍していた1996年当時のメッシ(前列右から2番目)(C)朝日新聞社
アルゼンチンのニューウェルスの下部組織で活躍していた1996年当時のメッシ(前列右から2番目)(C)朝日新聞社

 スポーツ先進国であるアメリカやサッカー王国のブラジル、アルゼンチンでコーチとなる人間は心理学を学ぶ。

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 アルゼンチンでサッカーのコーチライセンスを取得する折には「選手一人一人の人間性を把握しろ」と説かれる。U20アルゼンチン代表を経て、現在は10代の日本人選手を指導するセルヒオ・エスクデロは言う。

「アルゼンチンには、選手の気持ちが分からない者に指導者は務まらない、という考えがあります。皆が皆同じ接し方でいい筈ありませんよね。6歳の子供なら遊びの要素を多く取り入れながら、勝利へのこだわりを芽生えさせるとか、思春期の子、反抗期の子とどう向き合って、いかなるタイミングで厳しい言葉を使うとか、しっかり学びます。私の国では選手の家族構成や親の仕事、生活ぶりなど可能な限り詳しく情報を収集します。ある選手がシングルマザーと暮らしていると聞けば、父親とは離婚したのか、死別したのか、もしそうなら死因が病死か他殺か、まで聞き取ります」

 選手の人間性を知らなければ、きちんと付き合えないと考えるのがアルゼンチン流なのだ。

「この子は高い技術を持っているけれど、遠いところから通っている。何時間かけてクラブまで来ているのか。バス代は足りているのか。学校にはきちんと行っているか。麻薬はやっていないか。妙な友人はいないか。酒を飲んでいるか。煙草は吸っていないか。あるいは、この子の家庭はきょうだいが多い。ちゃんと3度の食事を腹一杯食べられているか。一日に何時間の睡眠時間を確保できているか、なども把握したうえでサッカーの指導を始めるのです」

 エスクデロには、今でも忘れられない心理学の課題がある。

「自分が担当するチームにクラブの会長の息子がいて、チームメイトのバッグや衣類からお金を盗んでいることが発覚した。どうすべきか? というケーススタディでした。クラブに報告するか、黙って自分で対応するか、その子を解雇するか、3つの選択肢のなかから答えを出して、話し合うのです。コーチも自分のクビがかかっているので、簡単には切れないぞと迷います。でも、彼を人間として叩き直すためには解雇が正解だという授業でした」

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人間性へのアプローチの仕方