渉さんはサポートを受けるようになって、1年間で体重は10キロ増えた。夜型から朝方の生活に変え、一日三食きちんと食事をするようになったからだ。洋服はSサイズからMサイズへ、すべて買い替えなければいけなかったが、渉さんの父親は、それもうれしい出費だと話す。

「息子は男らしく、ふくよかな顔つきになりました」

 渉さんの父親は、加速度的に成長しているのを、日々実感している。

「何よりも大きく変わったのは“心″です。アルバイトを始めたころは、続けられるだろうかとハラハラして見守っていましたが、休むことなく、遅刻することもなく、雨の日も合羽を着て出勤する姿は、頼もしい限りです」

■「無理!」 自動車免許の教習所で大泣き

 渉さんが「学校に行きたくない」と思うようになったのは、小学6年生ごろからだ。中学校に入ると間もなく友達とトラブルになり、完全に不登校になった。

 母親は理解を示してくれたが、父親は息子を厳しく叱り、なんとか学校に行かせようとした。あるときは担任がいきなり家に来て「迎えに来たよ」と言うので、驚いてトイレに立てこもったこともある。

 フリースクールに行ってみたこともあるが、渉さんには合わなかった。

 ほとんど外には出ず、ただ部屋でゲームをしたり、ネットサーフィンをしたりする日々。いつの間にか昼夜逆転して、食事も不規則になり、だんだんとやせていった。その後は通信制の高校に入学してなんとか卒業したが、勉強はあまり好きではなかった。

「学校の勉強って、社会に必要ないことばかり。面白いと思ったことは一度もなかった。仲のいい友達も、だんだんといなくなってしまった。このまま変われないとどうなるのかなーという不安はあったけれど、何もできなかった」(渉さん)

 父親の目には、そのころの渉さんはどんなことにも自信を持てないように映っていた。

「何か言われるとすぐに涙を流して落ち込むだけ。私たちの慰めや励ましの言葉も、全く通じませんでした」(渉さんの父親)

 高校を卒業するとき、母親に勧められて車の免許を取得するため、教習所に通うことに。しかし渉さんは、家族以外の人と話すのが苦手。威圧感がある男性の教官には、「これで大丈夫かな」「どうするんだっけ」と思っても、何も聞くことができない。

「無理!」

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23歳で「いつまでも子どもではいられない」