大口の友人のうちの1人には、1週間のうち1日を無償で差し出しているという。その日は友人のために捧げているため、岡野には1週間が6日しかない。

 現在の岡野は、交際相手の女性が住んでいる高級タワーマンションに転がり込み、悠々自適の生活をしている。「借金1000万円」と「タワマン暮らし」のイメージのギャップが強烈だ。本当の豊かさとは何なのか、と改めて問いかけたくなる。

 ギャンブル好きの岡野は、かつてはその勝ち負けに一喜一憂していたが、今では勝っても負けても穏やかな気持ちでいられるのだという。自分が多額の借金を背負っていることも、まともに受け止めると絶望するかもしれないが、他人事のように考えているので精神的なダメージはない。彼が借金の果てにたどり着いたのは、一種の「悟りの境地」だった。

 長引くコロナ禍の影響で、メンタルヘルスの不調を訴える人が増えているという。自分はこうあるべきだ、社会はこうあるべきだ、といった理想像にとらわれていると、いつの間にか足元が見えなくなり、絶望を感じてしまうことになる。

 地に足のついた岡野の借金哲学は、そんな時代だからこそ多くの人に必要とされるものだ。借金1000万円で明るく笑って生きている人がいるのに、あなたが笑えない理由はないではないか。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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