こうした悩みを打ち明けられなかった27歳の時、彩子さんはすがるような思いでツイッターで「2世」を探し始めた。SNSの中だけでも自分の本音をさらけ出したかった。結果的に、これが大きな転機となる。

「葛藤して悩んでいる人、恋愛で苦しんでいる人、2世というだけで宗教に縛られている人など、さまざまな宗教の2世と知り合い、本音で語り合うことができました。それが救いになり、明日に立ち向かっていこうという少しの勇気をもらえたような気がします」

 自分の置かれた状況を客観的に考えることができた彩子さんは、徐々に恋愛にも足を踏み出すことができた。夫とはマッチングアプリで出会い、数年間の交際を経てゴールインした。

「夫には宗教のこと、親のこと、これまでの経過などすべて打ち明けました。夫も夫の両親も『あなた自身とあなたの両親の信仰とは別の問題だから、これからのことを一緒に考えましょう』と言ってくれました。私は親に結婚したいと伝えることが一番の恐怖でしたが、夫のその言葉が支えになりました」

 彩子さんは、「自分を肯定してくれる人がそばにいてくれるというのは、とてもうれしい」と話す。彩子さんよりも早く親と宗教から離れていった弟も、そうであってほしいと願ったが、うまくはいかなかった。

「私が2世と結婚しなくても、長男である弟は何が何でも2世と結婚させると母も意地になっていました。もちろん、弟はそんなことには屈せずに、一般の女性とお付き合いして婚約まで交わしました。ただ婚約者を母に会わせれば激昂されることが分かっていたので、ホテルで父のみに会わせる形にしていました」

 とはいえ、母親に何も知らせずに結婚をすることも難しい。後に弟が両親に正式に結婚の報告をしたところ、母親は逆上して弟に罵声を浴びせ、「その女を殺しに行く!」と脅迫まがいの発言をしたことで、警察を呼ぶ騒ぎになったという。

「弟は昨年結婚しましたが、その一件以来、『妻の命を危険にさらすわけにいかない』と実家とは絶縁状態です。私はそこまでではありませんが、夫と夫の家族に迷惑がかからないようにと距離を置いています。両親は今も信仰を続けています。年老いて生活も大変でしょうし、近い将来は介護なども必要になるかもしれません。でも、私は自分たちの生活を優先したいと思っています」

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親による宗教への縛り付けは「虐待」