しのぶの邸宅は「蝶屋敷」と呼ばれ、負傷した隊士たちの治療にあたる「病院」「薬局」「リハビリ施設」のような機能を持っていた。さらに、胡蝶姉妹は、血縁関係にない、孤児の少女たちも養育していた。屋敷には、「花の呼吸」の継承者である栗花落(つゆり)カナヲが同居し、その他にも、隊士の看護等を担当している、神崎アオイや、すみ・きよ・なほ、という3人の少女も住んでいた。

「コソコソ話」に書かれていた「しのぶの妹」とは、同居している弟子たちを指している。そして、これ以外にも、鬼との戦闘で命を落とした継子(つぐこ)が、他にも数人いたことがわかっている。

 姉のカナエが亡くなってから、ずっと、しのぶはたった1人で、このたくさんの「妹」たちを守り続けていた。14歳からずっと。彼女もまた、「早く大人にならなくてはならない」運命を背負っていたのだ。しのぶは「妹」たちと、けが人たちを優しい笑顔で癒やし、導きつづけた。

■鬼の悲哀を知っても、憎むしかできなかった

 主人公の竈門炭治郎(かまど・たんじろう)が、鬼の実力者である「十二鬼月」の1人と、初めて交戦した直後、蝶屋敷に入院したことがあった。そこでしのぶと接した炭治郎はすぐに彼女の秘めた「怒り」に気がついた。

<怒ってますか? なんだかいつも怒ってる匂いがしていて ずっと笑顔だけど…>(竈門炭治郎/6巻・第50話「機能回復訓練・後編」)
しのぶは、驚きの表情を浮かべ、いつもの「笑顔の仮面」をそっと外す。
<そう…そうですね私は いつも怒っているかもしれない 鬼に最愛の姉を惨殺された時から>(胡蝶しのぶ/6巻・第50話「機能回復訓練・後編」)

 しのぶにとって、炭治郎の言葉は、自分の「本心」と向き合うきっかけになった。

<そう 私 怒ってるんですよ 炭治郎君 ずっと ずーっと怒ってますよ 親を殺された 姉を殺された カナヲ以外の継子も殺された あの子たちだって本当なら今も 鬼に身内を殺されてなければ今も 家族と幸せに暮らしていた>(胡蝶しのぶ/17巻・第143話「怒り」)

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鬼が消滅するまで気を抜くことはない