2013年に行われた飲酒行動に関する全国調査によると、アルコール依存症の人は国内に107万人いると推計されている。だが、病院を受診している人はわずか5万人程度にとどまる。それはなぜか。

 かつては医療機関にかかっても、「断酒」の選択肢しかなかった。そのため酒量が増えているにもかかわらず「問題はない」と否認する人や、「自信がない」「怒られるのが怖い」「一滴も飲まないのは嫌だ」という人は受診に来なかった。ケアをしないまま時が過ぎた結果、依存症のどん底まで落ちてしまい、多くを失ってからやっと受診に来るという悪い流れができ上がってしまっていた。

■国内初「減酒薬」に保険適用

 断酒ありきから幅を広げ、どん底の一歩手前で食い止めるのが「減酒」の概念だ。ここ数年、専門外来を開設する医療機関が出始めた。

 さらに、2019年に「セリンクロ」という国内初の減酒薬が保険適用された。簡単に言えば、脳がアルコールを欲しなくなる作用が期待できる薬である。同クリニックでも、処方された患者の9割超が「減酒効果があった」と評価したという。薬に頼れるなら心強いことである。

「断酒を強制する従来のイメージを変え、『まずは量を減らしてみましょうか』と敷居を低くすることで、医療機関に来やすくする。薬を処方することもできる。どん底に落ちる前にケアすることで、依存症患者の減少につなげていく。それが減酒外来の意義だと考えています」(倉持医師)

 話を聞きながら、筆者には合う気がしてきた。ならば、診察してもらおう。

(AERA dot. 編集部・國府田英之)

※記事は後編「『減酒外来』で処方された減酒薬 依存症との診断も「断酒は無理」の記者に効くのか?」へ続く

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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