■炭治郎と禰豆子を「信じた」鬼

 炭治郎と禰豆子を信じたのは、水の呼吸の剣士たちだけではなかった。偶然に浅草の人混みで、鬼の総領・鬼舞辻無惨(きぶつじ・むざん)に遭遇してしまった炭治郎を、鬼の珠世(たまよ)と愈史郎(ゆしろう)が援護する。

<あなたは 鬼になった者にも 「人」という言葉を使ってくださるのですね そして助けようとしている ならば私もあなたを手助けしましょう>(珠世/2巻・第14話「鬼舞辻の癇癪・幻惑の血の香り」)

 炭治郎が漠然と感じていた「鬼にも人の心がある」という予想は、珠世たちの存在によって確信へと変わる。炭治郎は鬼の苦悩を改めて知り、彼らと信頼関係を築いていった。鬼に「人間の心」を見いだすこと、鬼にも誠実であろうとすることは、響凱(きょうがい)戦、猗窩座(あかざ)戦などにも、大きな影響を与えた。

■炭治郎の心に「炎」を与えた煉獄杏寿郎

 それ以外にも、同期の仲間など、多くの人たちに支えられ、成長していく炭治郎だったが、那田蜘蛛山(なたぐもやま)の戦闘までは、まだまだ幼さが残っていた。炭治郎がはじめて遭遇した、鬼の上位戦士の1人である「下弦の伍」累(るい)との戦いでは、水柱・冨岡義勇と、蟲柱・胡蝶(こちょう)しのぶに、助けられている。

 炭治郎が大きく「変わった」のは、炎柱・煉獄杏寿郎と合同任務にあたった時のことだ。煉獄と「上弦の参」猗窩座(あかざ)との激闘で、炭治郎は彼らの動きを目で追うことすらままならない。そんなふがいない炭治郎を「弱者」と嘲笑する猗窩座に対して、煉獄はこう言い切った。
<この少年は弱くない 侮辱するな>(煉獄杏寿郎/8巻・第63話「猗窩座」)

 しかし、無限列車の乗客200人と炭治郎たち後輩隊士を守り切った煉獄の命は失われてしまった。自分の実力不足に、後悔の涙を流す炭治郎は、戦う煉獄杏寿郎の姿を思い出しながら、さらなる修行を決意する。

<心を燃やせ>(煉獄杏寿郎/8巻・第66話「黎明に散る」)

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「人間のまま死ぬことができますように」