竈門炭治郎(画像はコミックス「鬼滅の刃」10巻のカバーより)
竈門炭治郎(画像はコミックス「鬼滅の刃」10巻のカバーより)

 劇場版『鬼滅の刃・無限列車編』は国内の興行収入が400億円超える大ヒットとなった。6月16日にはDVDとBlue-rayも発売され、再び盛り上がりをみせている。同作は主人公・竈門炭治郎の成長譚としても楽しめるが、ここでは炭治郎が「炭焼きの少年」から、「鬼狩りの剣士」になるまでをふりかえり、彼を「強く」した周囲の人物たちの言葉について考察する。刀を持ったことすらなかった炭治郎は、何に支えられ、ここまで強くなったのか。【※ネタバレ注意】以下の内容には、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。

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■「弱く」て優しく実直な少年だった

『鬼滅の刃』の物語は、善良な一家の惨殺事件からはじまる。炭焼きとして静かに暮らしていた主人公・竈門炭治郎(かまど・たんじろう)は、自分の留守中に、家族が「鬼」に殺されてしまった。

 炭治郎は父を病で亡くしている。長男である自分が家族を守らなくてはならなかったのに、か弱い母や、幼い弟妹を守ることができなかった。たった1人生き残った妹の禰豆子(ねずこ)は鬼にされており、炭治郎はこの妹を「人間へ戻す」ため、文字どおり「命をかけて」鬼と戦う運命に、引きずりこまれることになる。

■水柱・冨岡義勇との運命的な出会い

 妹の鬼化という混乱の中、鬼殲滅組織「鬼殺隊」の水柱・冨岡義勇(とみおか・ぎゆう)が竈門兄妹の前に姿をあらわした。鬼の討伐に来た義勇は、問答無用で禰豆子に斬りかかる。そんな義勇に「どうか妹を殺さないでください…」と土下座しながら嘆願する炭治郎であったが、義勇はそんな炭治郎を一喝した。

<生殺与奪の権を他人に握らせるな!!>(冨岡義勇/1巻・第1話「残酷」)

 しかし、厳しい言葉とは裏腹に、義勇は、炭治郎に「妹を守る力」を与えようとしていた。「つらいだろう 叫び出したいだろう わかるよ」と心の中でつぶやく義勇もまた、炭治郎と同じように、鬼に大切な家族を奪われた過去があったのだ。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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