また、相棒の夏彦君を失った直後から、ストレスからか血がにじむほど過激なグルーミングをするように。ずっと伊藤さんの心配の種だったが、それもピタリと止んで心底ホッとしたという。

「猫はとても繊細だから、よけいなストレスを与えないように悲しくてもガマンして、彼らの見てない所でコッソリ泣くことが多かったんです。でも、無理して平気なフリをするのはこじらせるばかりで良くない。つらいときはつらいと周囲に言える状況が自分のメンタル回復にはとても良かったですね。この悲しみを受けとめてくれる人になら、心の中を吐き出しても大丈夫。つらい状況を自分一人で乗り越えようとせず、誰かを頼ったり、時には環境を変えたりすることも、決して悪いことではないのだと思います」

 2020年の全国犬猫飼育実態調査(一般社団法人ペットフード協会調べ)によると、飼い犬の数は848万9000頭、猫は964万4000頭。2019年以降、癒しを求めてペットを飼う人が増加傾向にある。とくに家で過ごす時間が増えた昨年は、ペットの存在で家族間コミュニケーションが深まったという声も多い。一方で、無責任な飼育放棄も多発し、安易な多頭飼いなども社会問題化している。

 犬の平均寿命は14.48歳、猫は15.45歳、人間よりも寿命は短いが、それなりの期間は生きる。そのため、気持ちがあっても飼い主が高齢だと最期まで世話できず、結果的にペットの不幸せにつながってしまう。実際に、前出の伊藤さんと近しい保護猫活動グループでも、生後3カ月の子猫の引き取りを希望した夫婦がいたが高齢だったため、譲渡を断らざるをえなかったケースがあったという。

ペットによって得られる癒しや安らぎはすばらしい。しかし、動物を不幸にしないためにも、住環境や経済状態、飼い主の年齢などの条件をクリアできない場合は、飼育を見送る自制心と冷静な判断も必要なのではないだろうか。(取材・文/スローマリッジ取材班 山本真理)