ミャンマー代表のピエリアンアウン選手(C)朝日新聞社
ミャンマー代表のピエリアンアウン選手(C)朝日新聞社

 サッカーW杯アジア2次予選に参加するため、日本に滞在していたミャンマー代表のピエリアンアウン選手が16日、クーデターで権力を握った国軍が支配するミャンマーへの帰国を拒否し、日本政府に保護を求めた一件が大きな反響を呼んでいる。ピエリアンアウン選手は近く難民認定を申請する見通しだが、政府は難しい決断は迫られることになりそうだ。

 ミャンマーで軍事クーデターが起きたのは2月1日。国軍が国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相、ウィン・ミン大統領ら民主政権の中心的幹部らを拘束し、政権を奪取したことを宣言した。クーデター後は軍への抗議、国内の民主化などを求めて多くの市民がデモ行動に参加しているが、軍と警察が弾圧を続けて600人を超える死傷者が出ている。

 ピエリアンアウン選手は5月28日の日本戦で国軍への抵抗の意思を示す「3本指」を掲げていた。母国に戻れば、自身や家族に危害を加えられる恐れを感じたのだろうか。今月16日夜、関西国際空港から出発するミャンマー行きの航空機に搭乗しなかったという。

 一般紙の国際部記者は「この問題は非常に難しい。重大な案件だと思います」と指摘する。

「彼の身を案じると、保護した方が良いかもしれませんが、難民認定を出すと、アスリートが日本に来て難民になれるという前例を作ることになる。日本は世界一安全な国と呼ばれていますが、難民認定するケースは世界的に見て極めて少ない。もし、今回認めれば、政情不安の国から来日した選手が同じように難民認定を求める事例が殺到するかもしれない。あと一カ月後には東京五輪が開催されます。五輪に出場する選手が独裁国家を批判して、帰国を拒否して日本政府に保護を求めることも考えられる。ピエリアンアウン選手を保護しなければ、海外から『冷酷な国』と批判されることになり、保護すれば国民から反発を受ける。政府は難しい決断を迫られることになります」

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