「恋ぷに」主演の石原さとみと綾野剛(C)朝日新聞社
「恋ぷに」主演の石原さとみと綾野剛(C)朝日新聞社

 4~6月期の連ドラも最終回を迎えたり、佳境にさしかかったりしている。そんななか、異彩を放ってきたのが「恋ぷに」こと「恋はDeepに」(日本テレビ系)だ。

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 石原さとみ扮する謎の海洋学者と綾野剛扮する不動産会社御曹司のラブストーリー。というか、ヒロインは人魚のような人外的存在なので、禁断の悲恋を描くファンタジーでもある。6月9日の放送が最終回で、16日に「運命の再会スペシャル」というサブタイトルの番外編が放送されるが、個人的には今期のナンバーワン候補だ。

 というと、意外に感じる人もいるだろう。ネットなどでは、悪評も少なくなかったからだ。その代表的なものが「ファンタジーであることが最初わからなかった」という不満。かなり好意的に論じられている「石原さとみを生かす男優と殺す男優の差 『恋はDeepに』の共演・綾野剛が見せた安定感」(堀井憲一郎)という記事にも、こんな指摘がある。

「石原さとみが演じる“渚海音(なぎさ みお)”は海洋生物の化身らしく、最初からその暗示はあった。魚の言葉がわかったり、そこそこ深い海の底へ素で潜っていけるなど、不思議な力を持っていた。ただそれは特殊能力かもしれず、序盤のうちは、その正体は明らかにされずに進んでいった。そこがかなり中途半端ではあった。ドラマとしては残念なところである」

 じつは筆者も、当初はそう思いかけた。が、思い直したのだ。こういうやり方もあってよいのではと。

 たしかに、物語の枠組みを先に提示しておくことは創作における基本かもしれないが、このドラマはあえてそこを曖昧にした。それにより、意外な効果が生まれたのだ。

 たとえばもし、日常世界に人魚みたいな存在がまぎれこんできたとして、それをすぐに見抜ける人はまずいない。信じられない、というのが普通の感覚だ。ところが、最初から人魚みたいな存在だとわかっていると、視聴者はその感覚を味わいにくい。その点、このドラマでは劇中人物たちと近い驚きが味わえた。まさかと思ったけど、そうなのかという気分。これはなかなか新鮮である。

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宝泉薫

宝泉薫

1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など

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