「教団の教義そのものは理解していたつもりでした。母からも『2世なのだから教えに従うのは当たり前でしょう』と諭されていましたから。また、『2世は優秀でなければいけない』『人の悪口は言ってはいけない、人を悪く思ってもいけない』と言われ、自分自身も2世として好まれる自分でいなければ、という意識が強かったと思います。いずれは同じ宗教を信仰している者同士で親に言われた通り結婚するのが当たり前だと思って生きていました。でも実生活ではだんだん自分の気持ちと教義の間に違和感を覚えるようになり、乖離(かいり)していったんです。思春期を迎えて、好きな人ができてもデートもできない。将来その人とは結婚できない、という現実にとても疑問を感じました」

 高校時代は学費と家計を助けるためにアルバイトを始めた友子さんだったが、それでも家計はいつも火の車だった。

「子どもの頃から、とにかくいつもお金がなかったという記憶しかありません。妹は歯が痛くてもお金がないので歯医者にも連れて行ってもらえませんでした。父もお金がないので、いつもイライラしていましたし、母は母で私をなんとしてでも結婚させたくてしょうがないみたいでした」

 この教団の2世は生まれたころから「純潔教育」を受け、一切の恋愛もしないまま、教団によるマッチングで出会った相手と結婚していく。

 友子さんにも恋人ができ、親の言うことよりも彼との時間を優先したい気持ちが大きくなった。

「そのころになると、もう教義は信じていませんでしたが、それでも心のどこかで2世として『堕落』するのは避けたいという思いが強く、自分で自分をコントロールできないことがまた葛藤になっていました」

 友子さんのいう『堕落』とは、結婚まで純潔を守らなかった子は地獄へ行くという教義をさすが、つまり宗教を続けている限り彼とは結婚するまでデートすらできない、もしデートをして性的関係を持った場合は地獄へ落ちる、という意味になるという。しかも、その「報い」は自分だけでなく、親も含めた先祖にまで及ぶと教えられていた。

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唯一執着するのは「お金」だけ