「五輪中止を求めるという議論にはなっていない。開催の是非には触れない方向です。ただ、IOCへも提言するとなると、『無観客』につながる強い提言になるのではないか。一方で、尾身会長の言動にはリスク評価の専門家としては踏み込み過ぎで、政治的でもある。分科会のメンバーも一枚岩ではないですから、分科会として提言するのか、それとも有志のメンバーで出すのかまだ結論は出ていません」

 菅義偉首相ら官邸周辺からは、尾身会長に対する不満が噴出している。「果たして感染症の専門家として扱っていいのか」(官邸関係者)という声も出ている。

 尾身氏は厚労省に入省し、その後、WHOに出向。そこで西太平洋地域の小児麻痺(ポリオ)を根絶させた人物として世界的に知られている。内戦が起こっていたフィリピンではラモス大統領(当時)に依頼をし、ワクチン接種のための『停戦協定』を結ばせたという逸話もある。

 他方で、医師・医学者ではあるものの、臨床経験は地域医療に従事した9年間のみで長くない。研究論文も英語の筆頭論文も多くはないと業界では言われる。政府関係者はこう漏らす。

「実態は厚労省の官僚ですよ。踏み込んだ発言も、五輪後の感染拡大を懸念する厚労省が予防線を張るために尾身会長に言わせているという見方もでている。『国を救う救世主』かのように持て囃され、行動が一層、扇動的になっているのではないか」

 来週前半にも出される「提言」の中身はどういったものになるのか。国民がそれをどう受け止めるか、注目が集まる。
(AERAdot.編集部 吉崎洋夫)

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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