確かに五輪の開催の可否については、菅氏は「国民の命を守る、安心安全を守るのが私の責任」と繰り返すばかりだった。

「菅さんはこういうべきなんですよ。『最終決断はしていないが、中止を含めた検討もしています』ってね。なのに、菅さんの頭の中にはもはや五輪開催しかない。官邸官僚を取材しても『中止の選択肢なんてそもそもない』と言われます」

 それには永田町の力学も働いているのだという。

「今の永田町の空気を見てると、菅さんは次の総選挙でもし大きく議席を減らしたら退陣だから、責任を取るところまでは菅さんにやらせて、ポスト菅に対する小競り合いが始まっている感じがします。ポスト菅をけん制して、3A(安倍晋三前首相、麻生太郎財務相、甘利明税調会長)が二階俊博幹事長に間接的に圧力をかけたり、下村博文自民党政調会長が出てきたり。永田町での足の引っ張り合いみたいなことも始まっています」

 そういう状況の中での党首討論だったと思えば多少理解なりとも菅氏の胸中も推察できる。

「菅さんには余裕もないし、もはや、中止という選択肢もないんでしょう。それでも、党首討論というのは、五輪やコロナ禍への首相の姿勢が浮き彫りになる。やらないよりはやったほうが絶対いいです。この非常時だからこそ、国会の会期は野党が言うように延長すべきと思います」

 首相の姿勢が浮き彫りになるといえば、菅首相の答弁の内容の真偽について、党首討論の散会後に物議を醸すことになった箇所があった。それは、枝野氏の質問に答えるかたちで口にした次の発言だった。

「まさにワクチン接種こそが切り札だというふうに思っております……昨日100万回を超えてきました。まさに一定の方向を示すと日本の国民の皆さんの能力の高さ、こうしたものを私自身今誇りに感じております」

 菅氏は「1日100万回」の目標達成を表明したのだが、実は未到達なのではないかという疑惑が持ち上がった。毎日新聞では「接種回数は1日60万人ペース」と報じた。

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そう仕向けるのが「菅流」