的場:新自由主義優勢のなかでも、協同組合は世界の全雇用の実に10パーセントを生み出していて、アメリカの協同組合の数は世界1位で、4万以上にのぼるのです。協同組合方式というのは、どっこいしっかり人気があって、根付いています。商品が確かで安全である、ということが信頼になっています。

池上:もう一つ、私が注目しているのは、宇沢弘文さんの「社会的共通資本」という考え方です。医療崩壊のリスクを目の前にして、宇沢さんの未完の思想が思い出されました。問題は、人のいのちを大事にする社会システムをどうつくっていくのか、ということです。

 アメリカの最新世論調査で、コロナ禍でリモートワークした人は、「出社」のような元のスタイルに戻りたくない、と答えています。給料は多少下がるかもしれませんが、家族と一緒にいることができ、衣服代もそうかかりません。お金儲けより命が大事――そこをスタート地点にしていかないといけないな、と思っています。

的場:リトアニアに芸術家たちが勝手に独立宣言したウジュピス共和国があります。41項からなる憲法があって、世界のいろいろな言語で書かれています。「15.誰にも幸せになる権利がある」一方、「16.誰にも幸せにならない権利」もあります。「4.間違いを犯す権利」も認められています。最後の39~41は「勝つな」「やり返すな」「でも降参するな」です。共同体を捨ててもいいし、求めてもいい。根源的な自由を追い求める共同体です。

 それは夢物語かもしれませんが、ルソーやモンテスキューが社会契約を基にした民主国家を考えたのは、絶対王政の時代でした。現実にひれ伏してしまえば、理想論で終わってしまったはずです。イギリス、フランスで始まった国民国家がいまや世界の主流ですが、誰もそうなるとは予想だにしませんでした。この国民国家だってあと300年経って残っているかどうか分からない。国家が解体して、地域共同体が主となっている可能性もあります。

 コロナ禍を経て世界がどうなるか、見極めていきたいと思います。