的場:彼ら民主社会主義者の支持を得て、バイデンが大統領になりましたが、トランプの一国主義、ユニラテラルから、ヨーロッパとも協同するマルチラテラルへと舵を切りました。人権と民主主義を旗印にして、ロシア、中国と対抗していこうというわけですが、日本はアメリカ追随の虎の尾を踏みました。

 似たような状況が、1989年7月にフランスで開かれたアルシュサミットでもありました。フランス革命200周年ということもあって、人権がテーマになり、その年4月に起きた天安門事件に対して非難宣言を出すことになりました。日本はそれに乗ることに躊躇し、中国の改革に期待する、といった文言を入れ、賛成しました。

 いまだに人権と民主主義をめぐって、日本が欧米と中国の媒介項になる、という道はあると思います。なにしろ150年、西洋とは違う資本主義と民主主義を発展させてきた日本ゆえの立ち位置がありますから。

■コロナ禍で生協への加盟者が激増している

――新型コロナと新自由主義の関連についても触れておられますね。

池上:新自由主義が広がって、小さな政府を推進する過程で、日本では保健所が激減しました。公立病院の統廃合も打ち出されましたが、新型コロナでストップしています。そのまま進んでいたら、どうなっていたか、ということです。ベッドを減らしたら補助金を出す、ということで予算が付いたわけですが、去年の11月、実行に移そうしていたことが判明しました。驚くべきことです。

的場:EUはそれぞれの国のナショナリズムを前提としながら、雇用を守り、維持するためにスタートしました。しかし、社会主義国が崩壊したことで、目標がズレて、フランス社会党でいえば、エリート主義、能力主義に傾斜していきました。要するに、労働者を裏切ったわけです。それを糊塗するために人権と民主主義を持ち出し、東欧の国を抱き込んでいく。実態は自国の工場を賃金の安いブルガリアやルーマニアに移し、結果、自国の雇用を失なっていきました。

池上:フランスの哲学者トクヴィルがアメリカ独立後しばらくして、現地を見て『アメリカの民主主義』を書きます。アメリカの民主主義を成り立たせるものは何か、と考え、教会などの中間組織に注目します。日本でそれに当たるものは何か。圧倒的な力をもつ国家への対抗軸となるもの。私たちの生活を守る、という意味で生活協同組合があり、コロナ禍で生協への加盟者が激増したといいます。それに労働者を守るという意味では労働組合があります。

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協同組合は世界の全雇用の10パーセントを生み出している