資本主義社会の限界がささやかれる昨今、その未来を探る手掛かりとして「社会主義」が注目を集めています。なぜ今、「社会主義」なのでしょうか? 『いまこそ「社会主義」』(朝日新聞出版)の共著者である池上彰さんと的場昭弘さんに聞きました。(※本記事は、朝日カルチャーセンター主催で2021年5月に行われたオンライン講座「いまこそ『社会主義』」の内容の一部を加筆・編集したものです)

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■ソ連、東欧、中国のものとは異なる「社会主義」

――まずこのご本の狙いをお話しいただけますでしょうか。

池上:資本主義の行き詰まりについて議論するときに、それに代わるオルタナティブなものとして社会主義を考えてみようということです。その際にソ連、東欧、中国の社会主義とは違う、「いわゆる」という意味でカギカッコを付けています。

的場:副題の「現代を読み解くための補助線」のほうがより意図を表していると思います。資本主義の問題と限界を明らかにし、併せて社会主義の欠点も指摘しながら、ソ連型だけでなく東欧、中南米などさまざまな社会主義のあり方についても議論をしました。

池上:マルクスの『資本論』に依拠しながら、いかに資本主義が非人間的なものであり、資本家さえカネの奴隷となっているかを論じましたが、あのあと斉藤幸平さんの『人新生の資本論』が出て、問題意識が一致している部分がある、と思いました。

 彼と対談したときに、資本主義をひっくり返すのに「(共産党のような)前衛党は必要ですか」と尋ねたら「必要ない」と言います。「それぞれのコミュニティがしっかりしていくことが大事だ」とおっしゃっていて、本書で的場先生が指摘なさっていたアソシエーションの問題にも通じるところがあるなと感じました。

 私が「コミュニズムではなくコミュニティズムですね」と言うと、「そういうものに近い」というご返事でした。

的場:斉藤さんの登場には私も喜んでいます。彼はベルリンの壁崩壊ごろの生まれで、新自由主義に囲まれて育った世代で、大学ではマルクス主義など皆無だったはずです。

池上:アメリカではバーニー・サンダースやエリザベス・ウォーレンなどが大統領選の民主党候補として若者の支持を得ていましたが、アメリカの若い世代には社会主義へのアレルギーはなくなっています。

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