昨年、警視庁管内での13歳未満の子どもについての前兆事案は約900件。さらに小学生以下の子どもが巻き込まれた殺人や暴行、傷害、強制わいせつなどの犯罪は175件発生している。

 子どもに対する犯罪の防止は社会的な要請が強く、近年、警察は前兆事案を犯罪に発展させないよう、予防的活動に力を入れている。不審な声かけやつきまといなどにったり、これを目撃した場合は、可能なかぎり、行為者の特徴や使用車両のナンバーを覚えて通報してほしいという。

■「あいさつ」だけで通報される

 だが、実際に通報されるものは、前兆事案につながるものばかりではない。実際は、不審者に関する通報の中には、犯罪に結びつかないものも多い。

「単にあいさつをしただけとか、まったく事件性がなかったことが分かったものもあります。けれど、1件の犯罪を食い止めるために何十件、何百件の空振りを積み重ねていく。そのためにも現場で真摯に話に耳を傾けることを心掛けています。そこで、どのような状況なのかしっかりと判断していく」(重成さん)

 だが、現場の警察官は「難しい判断」も迫られる。

 目の前にいる人物は、「迷子を保護した善意の人」なのか、それとも「声かけ、つきまとい」事案なのか――。警察官がいくら丁寧に聞き取りをしたとしても、善意の人であれば「犯罪者扱いされた」と感じることもある。迷子への声かけでそのようなイメージが広がれば、救える命が救えなくなってしまうかもしれない。

■「いかのおすし」徹底

 千葉県船橋市に住む南雲進さんは、長年、スクールガード・リーダーを務めてきた。このスクールガード・リーダーとは、「地域ぐるみの学校安全整備推進事業」の一環として2005(平成17)年度に文部科学省が主導して始まった制度で、警察官や教職員のOBらで組織され、防犯活動の行うための指導、援助、評価を専門家の立場で行う。

 元校長の南雲さんは、その防犯活動のための「声かけ」が年々、難しくなってきていると話す。

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「その場で110番通報してほしい」