「一般的な脳ドックの検査ではMRI(核磁気共鳴画像法)が用いられますが、これだと血管病変は早期発見できるが、脳萎縮はMCI後半にしかわからないし、アルツハイマーの最大の特徴であるアミロイドβの蓄積はわからない。そこでアミロイドβに反応する薬剤を点滴し、PET(ポジトロン断層法)で調べる“アミロイドPET”が有効です」

 新井医師の運営するクリニックでは19年からこのアミロイドPETによる新しい脳ドック「健脳ドック」を導入し、これまでに70ほどの症例を蓄積してきた。

「アミロイドβタンパクが集積していると、検査薬がアミロイドβのある箇所に集まるので、それを画像上で確認する。がんのPET診断の“アルツハイマー版”です。この検査をすれば、症状の有無に関係なく、MCIはもちろん、S CDの段階での洗い出しも可能。そこからアデュカヌマブの投与を始めれば、理論上、アルツハイマーの発症を防ぐことも不可能ではなくなります」(新井医師)

 ただ、このアミロイドPETの検査費用も、現状では1回あたり55万円と高額な点は大きなネックで、公的保険で全例に実施するとなるとさらに総医療費の高騰を招くことになる。

 そこで、新井医師は“健脳ドック”で得られた臨床情報を用いて、アミロイド沈着の有無を予測する工程の確立に向けた検討を始めており、アルツハイマー病駆逐の実現を後押ししたい考えだ。

 アデュカヌマブが起爆剤となり、新薬開発が活発化しそうだ。

「アルツハイマー型認知症に効果が期待される新薬の臨床研究は、19年の時点でわかっているだけでも100以上の薬の治験が世界で進められています。アデュカヌマブに代表される『疾患修飾薬(抗体)』のほか、同じ疾患修飾でも低分子薬の開発研究も続いています。特に低分子薬は抗体に比べて脳に到達しやすいので、この分野での新薬の開発は特に注目度が高い。治療薬の開発に加え、簡便・安価・高精度の血液を使った検査法の開発も進んでいます。これが実用化すれば、アミロイドβの異常な蓄積判定の簡便化や、治験薬の効果判定も容易になります」(河合薬剤師)

(文/長田昭二)

≪取材協力≫
アルツクリニック東京院長、前・順天堂大学医学部精神科教授 新井平伊医師
大阪大学医学系研究科招聘教授、前・国立長寿医療研究センター 認知症先進医療開発センター治療薬探索研究部長 河合昭好薬剤師

※週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』より抜粋