為末大さん(撮影/写真部・片山菜緒子)
為末大さん(撮影/写真部・片山菜緒子)
大坂なおみ選手(c)朝日新聞社
大坂なおみ選手(c)朝日新聞社

 テニス女子シングルスで世界ランキング2位の大坂なおみ選手(日清食品)が、全仏オープン選手権を棄権し、6月1日に自身のSNSで、2018年の全米オープン後からうつ症状に悩まされていたことを公表した。アスリートは屈強なメンタルの持ち主だと思われがちだが、大坂選手は自身を「内向的」と表す。アスリートも人間。常にプレッシャーがかかる環境では、健全な精神状態を保ちにくい。陸上男子400メートル障害の世界選手権銅メダリストでオリンピックに3度出場した為末大さん(43)に、トップアスリートだからこそ抱える心の悩みを自身の経験を交えて語ってもらった。

【写真】実は「内向的」な大坂なおみ。優勝カップを手にしてもどこか寂しげな表情

>>【(上)うつ告白の大坂なおみを取り巻く商業化が過ぎたテニスの弊害 「心の弱さではない」為末大】から続く

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「不安に陥ったことのない選手はいないと思います。僕は、<このままいなくなってしまえないだろうか>という願望が現役時代にありました」

 為末さんは、このように落ち着いた口調で話した。今回の大坂選手のうつ状態の告白に世間は驚きを隠せないが、アスリートのメンタルの不調や心の揺らぎは特別なことではないという。

 為末さんのいう「いなくなってしまいたい」願望とは、次のような状態を想像すると理解しやすい。優秀な選手でキャリアを重ねれば重ねるほど、練習から大会の結果は予想がつくようになる。1カ月後に大会が迫っていて、状態が芳しくないときは時間がたてば、必ずいやな結果が自分を待っている。残念な成績に終わることがわかっていながら、大会に臨み、やはり予想していた結果は避けられず、それが報じられ、世間に落胆される。そんなことを想像しながら、これからの1カ月を過ごさねばならない。

「ああ、今回は予選で落ちると思いながら大会に挑む。その様子はテレビで放映されることも、その後の記者会見での反応も、世間にどう見られるかも想像できる。今ではSNSもあるので、直ぐに跳ね返ってくる。大会が始まる前から、残念な結果が見えているのです。このまま消えたいと思ってしまったことがありました」

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現役のサッカー選手は38%に不安障害やうつ症状