仮に自分が精神科に行こうと思ったとしても、うつ病の影響で、調べたり情報収集したりする気力はまったく湧かない状態だったので、そうして信頼できる病院を探してくれたことはありがたかったですね。

――ご自身は「精神科」にどのようなイメージを抱いていましたか?

 医学の勉強を始めてまだ日が浅く、精神科の講義も始まる前だったので、恥ずかしながら精神疾患については一般の方々よりすこし詳しい程度で、知識は十分ではなかったと思います。

 そして、こちらも医学生としては反省すべきなのですが、精神疾患の方に会ったこともないのに、精神科に行くことにも漠然と不安を抱いていました。「行くところを人に見られたらどうしよう」と思ったりもして、受診する途中で「やっぱりやめて帰ろうか……」と、とても悩んだことを覚えています。ただ思い切って行ってみたら、自分の印象では、雰囲気もそこにいるひとたちも内科などの普通のクリニックと変わらなくて、「自分は何に不安を感じていたんだろう」と思いました。

 精神科の先生は「小川さんはだめな人間になってしまったわけではなく、うつ病という治療可能な病気です。一人で抱え込まなくても一緒に治していきますよ」と言ってくださった。自分のことをずっと責めていたので、ふっと気持ちが楽になったし、うっすらと希望とか未来が開けたような気がしました。

 通院を始めて症状はよくなってきましたが、大学に行くと「遅れを取り戻さなくては」と頑張りすぎて疲れきってしまったりもして、なかなか1年間継続的に通学できるまでには体調が安定しませんでした。

 結局、休み休み実習や講義をこなしていき、4年生を4回、5年生を2回、6年生を3回やることに。在籍できる期間は最長12年なのですが、ギリギリ12年かかってようやく大学を卒業しました。

――大学には病気のことをどう伝えていましたか?

 実は大学の先生や職員の方にはずっと伝えることができなかったんです。医学部にはチューターといって、学生5~6人ほどの班に1人ずつ面倒を見てくれる教員が配置されていて、定期的に面談をしてくださっていましたし、なにかあれば相談できる体制は用意されていました。チューターの先生も、休みがちで留年を重ねる僕を心配してくださっていたと思いますし、面談でも親身に助言してくださったことにとても感謝しています。

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