特に中野はショート全体で源田壮亮(西武)に次ぐ数字をマークしており、12球団でもトップクラスの守備範囲を誇ることが証明されているのだ。そういう意味では三遊間の守備に関しては中野の加入によって阪神巨人の差は縮まったと言えるだろう。一方で気になるのがセカンドの糸原だ。失策数こそ少ないもののセイバーメトリクスの指標では軒並み12球団でもワーストに近い数字となっているのだ。ちなみにこれは糸原がセカンドのレギュラーに定着した2018年からずっと続いていることであり、今年の数字を見てもここから劇的な改善を期待することは難しいだろう。

 失策数が年々減少傾向にあることは立派だが、打撃の状態が落ちてきた時には守備に関して高いポテンシャルを持っている小幡竜平などの抜擢も検討すべきではないだろうか。一方の外野手に関してはレフトを守るサンズとウィーラーはともに平均値よりも低い指標が多く、センターは近本光司が丸佳浩をリード、ライトは梶谷隆幸が佐藤輝明を上回っている状況で、トータルで見れば大きな差はないように見える。それを考えても、やはり内野の守備が阪神にとって大きなポイントと言える。

 また阪神についてもう一つ気になるのが捕手の梅野隆太郎だ。過去3年連続でゴールデングラブ賞を受賞しており、2019年には捕手として歴代最多となるシーズン123補殺をマークしているが、盗塁阻止率は年々低下傾向にあり、今年のUZRに関しても大城卓三に差をつけられている。今年で30歳と老け込むにはまだまだ早い年齢だが、球団の歴史に残る捕手となるためにも、ここからもうひと踏ん張りが必要になりそうだ。

 なかなか目に見えづらい守備ではあるが、シーズンの勝負どころでは一つのミスや軽率なプレーが明暗を分けるケースも少なくない。そういう意味でも2005年以来の優勝を狙う阪神が、ここからどこまで守備を整備できるかがペナントレースの行方を左右する一つの要因となることは間違いないだろう。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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