人はみな、家庭、健康、恋愛など、それぞれに異なる事情を抱えている。仲間として、支え合い助け合うことは絶対に必要だ。それを否定するものではない。だが、一線を越えたなれ合いは、互いに甘えを生み、せっかくのチームの士気を壊しかねないのも事実。


 
 リーダー自らが「機嫌」を持ち込まない姿勢をみせることで、一線を越えてしまわないような、職場にベースとなる規律を設定することができる。
 
 また、昔からドラマなどで、「部長、今日は機嫌が悪いみたい……」と部下たちが陰でボヤくシーンを見たことがあるかもしれない。一見、ありふれた日常のシーンと言われるかもしれないが、上司の機嫌やモチベーションに変化があることは、部下や後輩にとっては非常に厄介である。
 
 心象的な面ももちろんあるが、上司の機嫌に常に変化があるということは、その判断にムラができる、すなわち「決断にブレができる」ということ。
 
 いつもは通る上司への提案や企画も機嫌によっては通らなくなる。逆を言えば、精度の高くないものも機嫌によってはGOサインが出てしまう可能性がある。
 
 実のところ、部下や後輩のモチベーションを下げる“最大の悪魔”になりえるのが、この「理不尽さ」だ。不可抗力的な要因で、自分たちの努力の成果が左右されてしまうことは、最大のモチベーション低下につながる。
 
 そういう上司のもとで働く部下たちは、自身に厳しい対応がされないよう、リーダーの機嫌を取ることを、真っ先に考えるようになってしまう。
 
 内村監督作『ボクたちの交換日記』『金メダル男』でプロデューサーを務めた松本整氏は、内村との仕事は必要以上に何かをする必要がないので、楽だと漏らす。

「これを言ったらどう思われるんだろう? とか、空気を読んで応えたり、無理にウケを取りにいったりしなくていい。邪推する必要がないんですね。シンプルに、目の前の仕事だけに集中できる」(松本氏)
 
 以前、内村は「なぜ怒らないのか?」とスタッフのひとりから尋ねられた際、無意識な自身の振る舞いの理由を自問自答するように、「お笑いの現場で、機嫌が悪い状態ができてしまうと、目指すべきおもしろいものはつくれない。楽しくお笑いがやりたいのに、それでは本末転倒だから、そういう空気はつくらないようにしているのかな……?」と口にしていたそうだ。

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部下に「機嫌」を見せない努力