「今の若者に送られてくるLINE件数は、驚くほど多い。返すのに忙しくて電話しているどころではないですし、LINEが来るたびに着信メロディーを鳴らしていたらキリがない。情報の数量的にも、時代にそぐわなくなっているのだと思います」

 また、携帯への依存度も影響しているのではないかとみる。

「ガラケー時代は、まだ携帯以外に意識を向けていることも多く、『着信音を通して携帯の中へ』という切り替えが必要でした。でも今は常にスマホをいじっているので、曲まで鳴らす必要はなくなったのかもしれません」(同)

 若者の根本的な心理変化についても指摘する。原田氏によれば、リーゼントやワンレン・ボディコン、2000年代初頭のガングロブームのころまでは、若者は「自分の個性を主張したい」という意識が強い傾向にあったが、近年はそれが弱まっているという。ゆとり世代(27~33歳)やZ世代(17~26歳)では、若者のスタンダードな“自己主張”だった髪を染めるという行為も明らかに減ってきているという。着信音も「個性」を求める時代ではなくなった。

「特にZ世代は、悪目立ちを嫌がり、個性を主張してまで目立ちたいという願望は希薄です。LINEのアイコンにお気に入りの音楽をさりげなく付けることはありますが、周囲に音を出して、『俺はこの音楽が好きなんだ!』とまでは主張しない。着信の音楽で自分の個性を他人に知らしめるという若者像ではなくなった」(同)

 着うたに関わった“当事者”はどうみているのか。元「レーベルモバイル」(現・レコチョク)代表として着うた開発を主導した今野敏博氏も、アイフォンが“黒船”だったと振り返る。

 その上で今野氏は、日本の携帯電話事業をとりまく環境の激変について語った。

「ガラケーが主流だったころは、auなどの各キャリアが目玉として着うた関連のサービスを展開し、日本独自の文化として根付かせようとしました。しかし、日本はスマホ事業で後れを取り、コンテンツサービスはGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)に支配された。GAFA以外のサービスで伸びているのは、音楽だとSpotifyぐらいです。その波にのまれ、日本独自のサービスだった着うたも衰退した」

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4Gへの移行が「転換点」だった