友人の医師の表情が日に日に青ざめていくのがわかる。会うと真剣な目をしながら、ずっと最悪の事態を語り続ける。

「水際対策するというけれど、日本の国際空港は現在、抗原検査しかしていない。選手らに対して、PCR検査を五輪期間中は毎日やるというけれど、水際が甘ければ意味ないよ。だいたい海外の記者は監視のないフツーのホテルに宿泊しているよ。いったいどうやって彼らの動きを規制できるというの? ボランティアで関わる人たちに重症化リスクのある家族がいたらどうなるか。ワクチンの接種目標は掲げてるけれど、とてもじゃないけど非現実的! だいたいこの夏、日本のどこかで自然災害がおきる可能性は、例年を考えると限りなく高いですよ。何より東京で大地震が起きたら、いったい何が起きるかわかりますか? 炎天下で何万ものご遺体が路上で放置され、そこから新たな感染が発生する可能性を誰が今考えていますか? そういうリスクにどれだけ対応できますか? 具合悪くなったら救急車呼んで病院で診てもらえるという日常が、既に奪われているんですよ? それなのに今、国会では増税された消費税2%分を使って病床を減らす法案が通ろうとしている。都知事は感染症研究の長い歴史をもつ都立駒込病院を統廃合しようとしている。こんな時に?! こんな時なのに!? 間違っている、間違っている! これは感染症という災害なんです。今はとにかく、人命優先して災害対策を取るべきなの!」

 命と生活に真正面から向き合う医師ほど、最悪な事態を隅々まで想像しながら対策を具体的に練ろうと頭を腫らすようにして今の時を生きているのだ。それなのに……。

 政治家に必要な資質は何だろう。

 人類がこれまで体験したことのない規模でのパンデミックを生きたこの1年間ほど、そのことを考えさせられた年はない。日本で最もコロナ対策に成功したといわれている鳥取県の平井伸治知事が、5月24日放送のBS-TBSの「報道1930」に出演し、こう話していた。

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政治家の楽観と思惑はいらない