逆を返せば、リーダーが汗をかかず、のろのろと走るような人物であれば、その部下たちにも同じようなペースが伝染してしまうということになる。


 
 ここで留意しておきたいのは、内村はひと昔前の“モーレツ上司”とは異なり、その姿勢を周りに「強制するわけではない」という点。そうしたプレッシャーを与えることもしない。彼はひたすら、「自分一人で走ろう」とする。そんな孤独な姿を見た周囲が、「内村さんが走るなら、自分も走ろう」と、自発的に背中を追いはじめる。

「現場での内村さんはアクセルを全開で踏んでいますが、他人に同じことを求めたりはしません」
 
 そう証言するのは、舞台『ボクの妻と結婚してください。』をきっかけに多くの番組で 共演、プライベートでも親交が深い女優・木村多江氏。

「内村さんの進み方の力強さに、思わず“こちらも行かなきゃ”と知らないうちに走らされてしまう感覚なんですよね(笑)。別に内村さんから“やって”と強制されるわけではないけど、内村さんが黙々と努力する姿を見ていると、自分の中の“これくらいでいいかな”という甘さが取っ払われていく。座長なんだけど、リーダー然とはしてないです。でも、一番頑張っているから、周りがそれに自発的について行くような感じです」
 
 組織においても、ある一定の立場にいる存在が、そのポジションにあぐらをかくことなく、一番汗をかいて真っ先に走っていく姿は、現場に強力なインパクトを与える。そして、その「素晴らしいパフォーマンスを生もうと努力する姿勢」が周囲の「人の“心”を動かす」ことにつながっていく。
 
 その結果、決して部下や後輩に「強制」することがなくても、いつの間にかリーダーの汗まみれの背中を追って、チーム全体がともに走りだしていく。

●畑中翔太(はたなか・しょうた)
博報堂ケトルクリエイティブディレクター。アクティベーション領域を軸に手段とアプローチを選ばないプランニングで、「人を動かす」統合キャンペーンを数多く手掛ける。 これまでに国内外の150以上のアワードを受賞。Cannes Lions 2018 Direct部門審査員。2018年クリエイター・オブ・ザ・イヤー メダリスト。