愈史郎は常に珠世のそばにいて、危機の際には、珠世を抱きしめながら身をていして彼女をかばう。愈史郎は珠世を愛していたのだ。

■愈史郎の片思い

 愈史郎の珠世への恋心は、初登場時に集中的に描写されている。

<怒った顔も美しい…><珠世様は今日も美しい きっと明日も美しいぞ>(愈史郎/2巻・15話「医師の見解」)

 普段は毒舌な愈史郎であるが、珠世と愛の茶々丸(ちゃちゃまる)には、穏やかで優しかった。そんな愈史郎が、珍しく珠世に大声を出す場面がある。

<珠世様!! 俺は 言いましたよね? 鬼狩りに関わるのはやめましょうと 最初から><貴方と2人で過ごす時を邪魔する者が俺は嫌いだ 大嫌いだ 許せない!!>(愈史郎/2巻・16話「手毬遊び」)

 ふだんは愈史郎の言動をいさめることの多い珠世であるが、この愈史郎の叱責には、何も反論することができなかった。

■愈史郎の辛辣な言動

 鬼化した珠世は、愛する夫と子どもを食い殺している。家族殺害を珠世が後悔すると分かっていながら、無惨はそれを止めることをしなかった。珠世の「罪悪感」は、無惨が彼女を支配するのに、より有利に働くと考えたからだ。

 この事件によって、珠世は自身が「鬼」であることに強い嫌悪感を持ち、無惨を憎むようになった。愈史郎は、そんな珠世の傷ついた心を救いたい。そのため、愈史郎は、自分たちが鬼であることは認めながらも、「理性のない鬼とは違うのだ」と、他の鬼に対して過剰なほどに厳しい言葉を発する。

■愈史郎の優しい本心

 竈門兄妹と愈史郎たちとの共闘で、禰豆子が珠世と愈史郎を「人間」として扱い、彼らをいたわるように抱きしめたシーンがある。珠世は涙をこらえられずに、禰豆子に顔をうずめ、静かに泣いた。

 そんな珠世の様子を見つめる愈史郎の表情からは、険しさが消え、いつになく悲しそうだった。愈史郎は、自分が人間だった頃に、珠世がかけてくれた言葉を思い出した。

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珠世の「最期」を見届けた