眼内レンズで焦点を合わせる場合、単焦点レンズでは目に入る光すべてを1点に集中させる。しかし多焦点レンズでは、光を分散させて複数箇所にピントを合わせることになる。

「光が分散されるため、単焦点レンズと比べて見え方のシャープさは劣ります。細かい作業をする人などは、見えにくく不便を感じることもあるようです」(大鹿医師)

 また、多焦点レンズでは、夜間対向車の光をまぶしく感じたり、光が丸い輪に見えたりしやすくなり、夜間に運転する機会が多い人は注意が必要だ。

「ただ、日常生活を送る上では、眼鏡をかけずにテレビを見たり、読書したりできる多焦点レンズのメリットは大きいと考えます。ライフスタイルに応じて、自分にどのレンズが合うか医師と十分に相談して決めることが必要です」(黒坂医師)

 なお、多焦点レンズを用いた白内障の手術が2020年4月から選定療養の枠組みで実施できるようになった。選定療養とは、本来は同時に受けることができない保険適用と保険適用外の治療を、追加費用を負担することで同時に受けることができる制度だ。この制度により、「単焦点レンズと多焦点レンズの代金の差額」と、「多焦点レンズを使用するための検査費用」を追加で支払うことで、手術は保険適用の金額となる。

「負担額は病院やレンズの種類などにより異なりますが、手術の費用負担を軽減できます。実施できる病院は限られているため、事前に確認するといいでしょう」(大鹿医師)

(文・出村真理子)

※週刊朝日2021年6月4日号より