シノハラさんは初めての食事で、ファミレスに連れていかれたこともあったという。彼女は、ラグジュアリー系の雑誌の広告関係の仕事をしていた時期が長い。食事も、ファッションも、上質なものを経験している。


僕のようなフリーランスの記者と比べると、明らかに経済環境はいい。だからよけいにファミレスは大変な屈辱だったらしい。

「僕は近所のファミレスで1週間に3回は朝定食を食べていますけど、シノハラさんはファミレス、あまり行かれませんよね? 新鮮な体験だった……とはなりませんか?」という僕の質問には耳を貸さず、逆に聞いてきた。

「ファミレスにもある程度きちんとした食事を提供するチェーンと、とにかく安いチェーンがあること、知ってましたか?」

「はい。ヘビーユーザーですから」

「私がアテンドされたお店は、パスタが500円くらいで、グラスワインがなんと100円でした!」

 どのチェーンか、なんとなく察しがついた。もちろん入ったこともある。コスパを考えたら悪い店とは思わないけれども、シノハラさんは驚いたらしい。

「その店でパスタを召し上がった?」

「はい。向かい合って、ひと皿ずつ。私はカルボナーラで、その人はナポリタンでした。ワインも1杯ずつ。サラダはオーダーしませんでした」

 一度目のお見合いの後に交際へ向けての継続を決めているわけだから、相手の男性への第一印象は悪くなかったのだろう。でも、ファミレスに連れていかれたことでひどく傷つき、カウンセラーを通して交際は断ったそうだ。その男性がケチなのか、お金がないのか、あるいはファミレスで十分だと相手を値踏みしたのか、ワリカンが当然という主義なのか、そのあたりは不明だ。

 とにかく女性のシノハラさんは、軽く扱われたと感じた。一方、男性側は、お金がかかる女とは付き合いたくないと思っていたのかもしれない。

 価値観が異なり、かみ合わなかった。このケースはどちらが悪いというものではないだろう。ファミレスでの食事を気にしない女性もいる。一方で男性が全額負担することを好まない女性も一定数いる。相手との異なる価値観をどう克服するか――。

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ワリカンに対する結論