婚活アプリでマッチングしたレイコさん(仮名)は45歳、外資系コンサルティング勤務。

 掲載されていた写真が好みで、ダメモトでメッセージを送ったら、レスポンスをくれた。何度かのやり取りのあと、会う約束を取り付けることには成功したのだが……。

 しかし、レイコさんとは価値観が違うことはすぐにわかってきた。

「今週末、リッツのアジュールでお食事、いかがでしょう?」

 リッツのアジュール? 彼女が提案する店がどこなのか、すぐにはわからなかった。あわててネットで検索すると、六本木にあるラグジュアリーホテル、リッツ・カールトン東京のなかのフレンチ・レストラン、アジュールフォーティファイブだった。

 初対面でリッツのフレンチ? どう対応していいか迷った。いきなりラグジュアリーホテルで食事をするというのは、婚活アプリではふつうにあることなのだろうか。そう思いつつも、せこいプライドがじゃまをして、断れなかった。会いたかったのだ。

「わかりました。予約しますね。楽しみです」

 ああ、なんとバカなオレ――そう思いながらもリッツに電話をかける。すると、幸運にも満席だった。

「満席でした。残念です」

 レイコさんに連絡をする。「残念」は、もちろん本心ではない。
 次に彼女が提案した店も幸い「満席」。結局、さらに提案があり、六本木のグランドハイアット東京のステーキハウス、オークドアで待ち合わせた。

 目の前でシャンパンのグラスを重ねフィレステーキを頬張るレイコさんは、45歳には見えなかった。実年齢を知らなければ、30代前半と言われても信じただろう。彼女の容姿に目がくらんだ僕は、何を言われても同意してしまう。彼女はどんどん饒舌になっていく。ああ、やっぱりバカなオレ……。ここでも、自分で自分にがっかりさせられる。

「私、婚活アプリに登録をしなくても、男性との出会いはあるんです」

 彼女は自信たっぷりだ。

「そうでしょうね」

 ニコニコと同意する僕。食事中、彼女はときどき席を立つ。トイレにしては回数が多い。3回目の離席のとき、その目的がわかった。ルイ・ヴィトンのバッグから、ちらりと電子タバコがのぞいた。

「私のまわりの男性は既婚者がほとんどです。シングルもいるにはいるけど、頭が悪い人ばっかり」

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自分は頭がよくて周りはバカ